うッ、ううッ、うひッ・・・ぼくはうつぶせになって、寝台の丸い穴に顔をうずめ、強く弱く背中に音楽を感じながら、ぐ、ぐげ、ぐげげッと低いうめき声をあげ、韓国での最後の時間を過ごしていた。そう、ぼくは仁川空港 Incyon inte'l Airport のカウンターで手続きをして、搭乗までの空き時間に、空港内の風呂つきマッサージ屋で、マッサージを受けていた。
マッサージ師の小柄なおっさんは、英語も日本語も理解せず、ぼくはと言えば韓国語をわからない。笑顔と身振りで、すべては進む。服ヲ脱イデ、コレヲ着テ、横ニナッテ・・・すべて身振りだ。(ま、人間とはおもしろいもので、相手が理解できないことがわかっていても、ときに自国語を口にするけれど。)
全身をくまなくマッサージされているうちに、ぼくはだんだんじぶんが楽器になったような気になってきた。ついさっきまでぼくは、路地裏の楽器屋に吊された、日焼けしてしょぼくれたギターだった。しかし、いまや、ぼくの体は音楽を奏でていた、名手がフレットを俊敏に動く指と、かき鳴らす爪のストロークに拠って、リズムとメロディが聞こえてくるのだった。ぐ、ぐげ、ぐげげッと、うめきながら、この人は芸術家に違いない、と、ぼくは確信していた。
かれはぼくの体を仰向けにさせ、やがて腹のマッサージにかかる、かれが快活に笑う、おれの腹がプクンと出ていることがかれをたのしませているようだ。ぼくは叫んだ、キムチ、チゲ、サムゲタン、マシスニダ! かれはゲラゲラ笑いながら、ぼくの体を自由自在に操ってゆく。ヒッ、ウッ、アッ!
50分の短いアフェアの後で、ぼくは、小柄なおっさんの手を見せてもらった。かれの指は太く、やわらかい肉がついていて、よく使い込まれた良質のゴムのようだった。カムサハムニダ! ぼくは礼を言いかれと別れた、韓国滞在のおわりの音楽を、体中で聴きながら。
さらば、ソウル。ぼくがつかのま愛した都市よ。美しく大きな河よ、ぼくといっしょにダンスを踊った若者たちよ、ボロいウィークリーマンションみたいなオンドル部屋のおばちゃんよ、年柄年中喰ってばかりいる前のめりな隣人たちよ、通りすがりに I LOVE YOU. とぼくに告げ、いたずらっぽく立ち去った若い娘。ぼくとくいもんをわかちあった、すべての隣人たち。キムチ、チゲ、サムゲタン、マシスニダ! ぼくをよろこばせてくれて、ありがとう。友よ、ソウルよ、またいつか会おう。
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