ガンディー、登場
いまもインドのお札には、丸眼鏡のガンディー・ジー(ガンディーさん)が、
愛嬌たっぷりに微笑んでいて、
ぼくもむかしからガンディーが好きだったし、いまも好きだけれど、
ただし、インド近代史に関心をもったとたん、ふしぎにおもえてくる。
だって、ガンディーって、「布切れ一枚まきつけた
ハーフヌードのおじいさん」、
しかも宗教家みたいに見えるけれど、
ただし、まず第一にインド独立運動を独自の方法で闘った、政治家ですよ。
明治政府に喩えるならば、
大久保利通、伊藤博文、山縣有朋、岩倉具視と一緒に、
親鸞が混じってるような感じ。明治政府に、親鸞はいないでしょ。
とはいえ、ガンディーをもっぱら親鸞に喩えるのもまちがっていて、
なぜって、ガンディーは、まず第一に、弁護士としてキャリアを始めた人なんだ。
順を追って話せば、ガンディーは、グジャラートに生まれ、育ち、
当時インドでは当然だった少年少女婚にしたがって、
13歳で、14歳の妻と結婚。
18歳でロンドンにわたって、法律を学んで、弁護士になったんだ。
余談ながらロンドンにいた頃は、シルクハットかぶって、
ラテン語も、フランス語も学んで、ダンスも習ったそうな。
ただし、禁酒、菜食主義、禁欲は貫徹し、
ロンドンに一軒だけあったヴェジタリアンレストランで、
神智学協会 Theosophical Society のメンバーと知り合って。
神智学協会って、ニューヨークで生まれた、
仏教とヒンドゥー文学を研究する、
ちょっとオカルトがかった、学究的なグループ。
そこでガンディーは、キリスト教の聖書と、ヒンドゥーの古典、
Bhagavad Gitaを読むことを勧められた。
ほかにもトルストイや、ラスキンも読んでいる。
さて、かれの最初のキャリアは、南アフリカでの弁護士に始まっていて。
当時はまだハーフヌードのおじいさんではなく、
ガンディーは、若く、スーツをばっちり着こなしていて。
南アは、アラビア海の向こう側ゆえ、インド人が多く働いていて。
しかも南アといえば、差別の本場、
アパルトヘイト法のもとに、
レストラン、ホテル、列車、バス、公園、公衆トイレにいたるまで、
公共施設はすべて、分離が適用され、
たとえば黒人が白人専用の公園に立ち入ろうものなら、即座に逮捕された。
黒人学校の生徒は、白人によって演出された劇の上演に参加することはできなかった。
外国のオーケストラの演奏会やポピュラー・ミュージックのコンサートに黒人が
来場し耳を傾けることも熱狂することも一切できなかった。
たとえば白人と黒人が同時に交通事故に会ったとして、
白人用の救急車に、黒人を乗せることはできなかった、
黒人は黒人用救急車を待たなければならなかった。
もちろんこうした現実は、
ブリティシュ・インディアにも存在していたものの、
南アほど厳然と明文化されたものではなく、
こうした現実のなか、ガンディーは、南アフリカで、弁護士の立場で、
インド人の権利を守るために闘ってゆく。
こうしてガンディーは、たんに弁護士であるのみならず、
社会運動家にもなってゆく。
ガンディ-は、1909年の11月、
"Hind Swaraj or Indian Home Rule"という本を書いた。
ガンディーは、英国からの独立を目指すにあたって、
非暴力 Non-Violence と、
Swaraj(自治)を訴えた。
しかもそこには、たんに英国からの独立を目指すのみならず、
それどころか、「鉄道と法律家と医者がインドを貧しくしたのだ」
という激しい近代批判さえ含む、過激なユートピア主張だった。
さて、第一次世界大戦開戦の翌年、
ガンディーが、南アフリカでの弁護士活動を終え、
インドに帰国していて、このときガンディーは四十五歳です。
そもそも第一次世界大戦における大英帝国の、インド人への大義名分は、
「この戦争が終われば、インド人によるインド自治を約束する、
だから、きみたちインド人も、英国のために戦ってくれ」だった。
だから、ガンディーは、インド人たちに戦争参加を勧めた。
ところがどうだろう、
戦争が大英帝国の勝利に終わったにもかかわらず、
自治の拡大は一切進まなかった。
まぁ、じっさいどこも戦後はひどい不況、
英国も、デモやストライキが続き、失業者300万人。
しかし、戦後の事情がどうあれ約束は約束だ、
ガンディーは、英国に裏切られたとおもった、
ムハンマド・アリー・ジンナーも怒りと失望は同様だった。
「大英帝国への協力は、けっしてインドの独立にはつながらない」
かれらはそう確信した。
いや、インド人による自治の拡大どころか、
ブリティッシュ・インディアの第一次世界大戦後は、ひじょうに不吉にはじまったのだった。
つづく →
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