『ヨーロッパのはずれの島と、象の顔の形をした大きな大陸の歴史(13)』ジュリアス・スージーさんの日記

レビュアーのカバー画像

Eat for health,performance and esthetic

メッセージを送る

ジュリアス・スージー (男性・東京都)

日記詳細

ヨーロッパ人、神秘の国インドを夢見る









おりしも、1801年そのグレイト・ブリテンが、アイルランドを併合して、
大英帝国 United Kingdom of Great Britain が生まれる前後であり、
そしてそれはまさに、大英帝国 the British Empire がその相貌を見せはじめた時期、
産業革命と植民地政策によって稼ぎ出した富の上に、
個人主義の賛歌、反近代主義、異郷への夢想の、花々が咲いている。
それがロマン主義なんだろうなぁ。






かの国のロマン派詩人たちは、
旧弊な常識から自由であることを競い合っていた。
社交界のアイドル、バイロンは、
ダーダネルス海峡を泳いで渡りもすれば、
紡績工たちの機械打ち壊し運動を支持し、
かれらの弾圧に抗議もした。
ワーズワースは、
科学もアートももうたくさんだ、
自然としたしもうじゃないか、と挑発した。
ウィリアム・ブレイクは、絵と詩で、神秘体験を描いた。
コウルリッジは、アヘンを飲んで、
東洋の果て、フビライ・ハンの悦楽の宮殿、
氷の洞窟を擁して太陽に輝くプレジャー・ドームを夢見た。
メアリー・シェリーは怪奇小説を書いた、
気のふれた科学者が人造人間を作ったものの、
生まれてきたのは世にも醜い人造人間、
かれは自分の人生を呪い、関係者全員を惨殺してゆく物語を。
いまにしておもえば、それらロマン派の作品はすべて、
啓蒙主義と科学主義への軽蔑であり、
逆に、自由と創造性への賛歌だったのだろう。
バブルの時代のゆたかさが、
文芸の世界で、反近代主義の主題を育てた。







こうした反近代主義は、
とうぜんのように(!)インドへの関心に結びついてゆく。
かれらは『千夜一夜物語』とともに、
ヨーロッパ人たちが翻訳したインドの古代文献に魅了され、
エキゾティックな夢をかきたてられたのだった。
インド学が「発見」したインド古代文芸と、
ロマン派の関係は、一言では語りきれない。
顕著には、ドイツロマン派への影響であり、
かれらはおそらく自分たちの民族の12世紀の『ニーベルンゲンの歌』を経由して、
古代インドの神話の輝きを見出していったのではなかったかしら。
ゲーテの『ファウスト』は、
5世紀のインドの詩にインスパイアされたものであり、
ゲーテにとって、それは古代ギリシアのスパルタの誰かの詩に擬えて詩を書いたことと、
同じ精神の働きだったろう。
では、ノヴァーリスの『青い花』は古代インドからどんな影響を受けているだろう、
おそらくそれは、植物、鉱物、動物の別なく、
あらゆるものに精神が息づいている世界の表現ではなかったかしら。















他方、文学の世界を離れれば、
インドに批判的な人たちもまたたくさんいた。
たとえばヘーゲルは、『歴史哲学講義』のなかで、
インドを「あこがれの国」「魔法の国」「ふしぎの国」と語りはじめ、
「インド人の一般原理」は「夢見る精神」であると定義し、
「インドの政治体制は一民族をなすにすぎず、国家ではありません」と、
結んだものだ。
ヘーゲルは考えていた、
「知識と技術と意志をもつ自由な個人」と、
「客観的な自由の表現である法律」と、
「最終的な決断をする君主」が、世界史を動かすべきだ。
それはほとんど理性的ユートピア主義である。
なるほど、ヘーゲルとインドとの相性は、いかにも悪そうだ。





JSミルの父親ジェームズ・ミルは、
一度もインドの土を踏むことなく、
サンスクリットもペルシア語もヒンディもベンガル語もできないにもかかわらず、
"History of British India"(1817年―1818年)を書きあげ、
「文明の階梯にかんがみて、インド人は半未開である」と論じ、
かれらをより高い段階に引き揚げることがイギリスの使命である」と唱えた。
しかもあろうことか、その考えが、主流派の意見になっていった。
イギリス植民地インド統治から、東洋への夢が剥ぎ取られてしまえば、
後に残るのは搾取の現実だけである。




1820年以降、大英帝国は工業の時代を迎え、
工場の煙突から煙が立ち昇り、経済繁栄が空を曇らせ、
英国紳士はシルクハットをかぶって、つねに傘を持ち歩き、
世界で最初に、花粉症に悩まされることになる。
投資も活発になり、金融が農業をうわまわってゆく。





つづく  → http://www.doom.now.cc/rvwr/000436613/diarydtl/52324/
目次 https://www.doom.now.cc/rvwr/000436613/diarydtl/161891/
ページの先頭へ