海に浸かり山に入りを繰り返していればいつ日かお盆が近づく。。。
太陽は傾き青い海を寂しげに照らす。山の寺は夕刻の墓参りで子供たちが手にした提灯が蛍火のように可愛らしい浴衣の回りを舞っている。少年は季節に終わりが近づいていると感じる。そしてお盆が過ぎれば波はいつまでも静かにはしていない。あれほど穏やかだった波は小石を巻き込む音が激しくなり、その波の音は少年たちに「もうお帰り」と告げているようだ。
少年と秀ちゃんは上野まで一緒に帰ることにした。急行は直江津始発である。直江津まではローカル線で向う。最寄りの駅まで伯父さんが車で送ってくれる。駅で出迎えてくれた伯父さんとは今度は別れの場面となる。
「じゃ、気をつけてな。ホームまでは行かんよ」
少年も秀ちゃんも黙って頷き改札を抜ける。
直江津へ向かう車窓から遊んだ漁村が見える。懐かしい景色が窓から見えて来る。海は太陽の光を受け透き通るような青をキラキラ輝かしながら車窓から流れてゆく。
直江津で上野行の急行に乗り込む。急行の名前は確か、妙高何号とやら。。
指定席の番号に腰を降ろす。発車までまだ余裕がある。
ここで、兄弟が母親と一緒に電車に乗り込んで来た。兄は慶太と同い年くらいであろうか。
「あーここ」
母親は座席番号を確かめて子供たちと一緒に安堵して腰を下ろす。
家族の座席は4つほど先の斜め前なので少年の視界に家族たちの風景が手に取るように目に入る。
「お母さん、ちょっとお土産買って来るね。。」
母親だけが座席から立ち上がり電車を降りる。
あと5分で発車するとの車内放送が流れて弟が落ち着きを無くし、
「お母さん戻ってこない、どうしたんだろう、どうしたんだろう」と喚きながららホームをのぞき込みついには座席の青い背もたれを激しく泣きながら大きく叩きはじめる。
大袈裟な泣き声と座席を叩く音に少年は緊張をする。もしこのままドアが閉まって発車したら今度はどんな光景で弟が暴れ回るのかと期待を膨らませてしまう。
兄は弟の泣き声に冷静さを失う。
「おい、落ち着けよ」
すぐさま、ピンピンと軽快な音がする。弟のほっぺをビンタしたのである。頬を叩かれた弟の喚き声は一層と激しくなる。
少年は秀ちゃんの顔を見てニヤリと笑い益々の緊張で心臓が膨れ上がり次の場面に期待するがぎりぎりのところで母親は戻って来た。今度は安心したのであろうか兄が泣き声になって、、
「なに、やってたんだよ。電車出るところじゃん」
「色々とお土産をね。泣かない、泣かない、ちゃんとお母さんわかってるから大丈夫よ」
ベルが鳴り響きドアがガシャンと閉まり電車は動き始める。電車は緑の平野をどこまでも駆け抜ける。
稲たちは左右の窓から午後の太陽を浴びて大海原の波のように揺れながら緑の光を跳ね返している。
急行は吸い込まれるようにトンネルに入る。一瞬にして闇となる。
夏休みは終わろうとしている。。