ジュリアス・スージーさんのマイ★ベストレストラン 2010

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Eat for health,performance and esthetic

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ジュリアス・スージー (男性・東京都)

マイ★ベストレストラン

レビュアーの皆様一人ひとりが対象期間に訪れ心に残ったレストランを、
1位から10位までランキング付けした「マイ★ベストレストラン」を公開中!

コメント

2010年秋、食べログをはじめて、たくさんのグルメの人たちのレヴューに触れて、魅力的なお店をたくさん知ることができて、感謝しています。しかも食べログレヴューは、お客が良い店を選び、お客目線で店を格付けをする凄みがあって、たとえば食彩かどた、小岩サンサール、アロマフレスカなど、ちゃんと高い実力をそなえ、お客に愛されている名店に、ちゃんとふさわしい高得点がついていることに感動しました。その反面、フレンチレストランのOGINOが(たしかに良い肉をより安く出し、多くのお客に愛されているとはいえ)、あそこまでたいそうな高得点であることにぼくは疑問をもっていますが、それであってなお、たしかにそういう評価基準もあるかなぁ、と学ばされるものがあります。対照的に、ミシュラン東京版は、ぼくはフレンチにしか意見を持っていませんがその限りにおいて、掲載店の四割が「???」で、そう感じている人はけっしてぼくだけでなく、それどころか、港区渋谷区目黒区あたりをうろつくお嬢さんたちが、「いかにもミシュラン好み(=小盛り)よね、(もっと盛れっつーの!)」とか、「ミシュラン掲載店なのに、料理、おいしいよね♪」なんて囀ったりする現実に、さすがにショックを受けました。そんなこんなで、食べログっておもしろいな、便利だな、っておもっています。今後とも、みなさま、よろしくお願いします。


追記) なお、フレンチ・レストランでは、フランス料理らしさを実に優美に備えた広尾アラジン、まったりした深いうまみが一貫して輝く銀座ル・マノワール・ダスティン、三つのスペシャリテが輝く白金台オザワ、はたまた低額店ながら、堂々たる料理をふるまう目黒キャス・クルートがランクインしていないのは、初訪問が(締め切り過ぎの)十二月だったからです。また、絶品・白身魚のパイ包み焼きの、溜池山王、仏蘭西厨房かりやまは、ついうっかり入れ忘れました。なお、インド系では、小岩サンサールは、すばらしくおいしく、自分の基準ではほんらいベスト3に入れないなんてありえないことですが、ただし、すでに名店の評価が高いので新店の紹介に席を譲りました。SITAARA表参道店も、神田小川町シャヒ・ダワットも、御徒町アーンドラキッチンも、麻布十番シディークパレスも、そして南インド料理店なら、船堀Govinda's 、そして東葉勝田台 葉菜もとうぜん入っているべきお店です。いまにしておもえば、鮨~和食を外して、フレンチレストランとインド料理店だけに特化すべきだったかなぁ。けれども、(鮨はぼくの専門外とは言え)西葛西・魚河岸寿司 がすばらしくおいしいんだもの、そんなことできなかったんだよ。 まぁ、ぼくはざっとそんな価値観の人間だけれど、そんなぼくの理想のお店は、松坂屋本館七階の銀サロンなんだよ。

マイ★ベストレストラン

1位

Un十 (麻布十番、赤羽橋、六本木 / フレンチ)

1回

  • 夜の点数: 4.0

    • [ 料理・味 5.0
    • | サービス 3.0
    • | 雰囲気 3.0
    • | CP 3.0
    • | 酒・ドリンク 3.0 ]
  • 使った金額(1人)
    ¥8,000~¥9,999 -

2011/01訪問 2013/07/28

おしゃれにおいしい、プロヴァンス・フルコース。

わ、どうしよっか、もうここには、
最新情報を書き込むスペースがないね、
わかった、OK、最新情報の、
「山崎シェフの、ゴージャス・プロヴァンス料理食事会」は、
日記に書くことにするよ。
http://u.www.doom.now.cc/000436613/diarydtl/44906/





おぉ、開店半年後にして、ようやく麻布十番 un 十(あんじゅう)も、
ほんとうの自分を発見したね、
プロヴァンスのちいさなレストランのように、か。
明るくて、華やかで、自由な気分と、幸福。
かわいい女の子が、ふわふわの髪で、五分メイクで、セルリアンブルーのピアスをつけて、
冬でも、ちょっぴり華やかなワンピースにコートを着て、ブーツの靴音たてて、
魚貝鍋ブイヤベースを食べに行く感じ。
夏なら丸い肩を出して、おしゃれめのサンダルで、白ワイン飲みながら、魚貝料理をいただく、
そんな気軽なウキウキ感が、いい。
これが同じ海辺でも、ドーヴァーの方、
「ブルターニュのちいさなレストランのように」だったら、
人々は毛糸の帽子にグースダウンのジャケットで、
海鳴りの音を聞きながら、悲しみを暖炉で燃やし、
丸い形のおいしい牡蠣を食べています、
ぷにぷにの仔羊にはちょっぴり涙の味が混じっています、ってイメージだもの、
それじゃあ料理はおいしくても、ちょっと、淋しいね。


もっとも、フレンチ好きな人のなかでも、プロヴァンス料理って、世代によってイメージが違うかもね、
なぜって、フランス料理って、時代ごとに流行があるから。
1970年代あたりだと、ブフ・ブルギニヨン、
そう、仔牛の赤ワイン煮が、フレンチを代表していたような印象があって、
仔牛の肉をブルゴーニュワインでしっかり煮込んだ料理、昏いワインレッドの輝きと奥深いおいしさがあってね。
逆に、その頃のプロヴァンス料理は、わりと肩身が狭くって、イタリアンの親戚みたいな感じ、
ラタトゥイユは家庭料理だし、トマトのファルシ(詰め物)はデリカテッセンの料理、
魚料理は、おなかに香草つめて焼くだけって印象、
魚貝鍋ブイヤベースでさえも、キャラがはっきり定まってなかった。
でも、1980年代に、ジャック・マキシマン・シェフが、ニースのホテル・ネグレスコで、
「花ズッキーニのトリュフ風味」「サーモンの岩塩風味」「ティアン・ダニョー(仔羊のティアン風)」を出し、
さらには、1990年代に入ってアラン・デュカス・シェフが、
リゾットにおしゃれなソースかけたりして、
喩えて言えば、ジーンズにシルクのブラウスを合わせ、
大きなゴールドのイアリングをつけるような演出をして、
そのとき、プロヴァンス料理は、颯爽とデビューしたんだ。
それからですよ、あ、プロヴァンス料理も、家庭料理だけじゃなく、
シャンデリアの下に映える、そんなプロヴァンス料理があるんだな、って
注目を集めるようになったのは。
山崎貴政シェフ(1976-)がまた、ほんとにプロヴァンスを愛していてね、
プロヴァンスのこと話しはじめたら止まらないんだ、
しかも見かけに似合わず、料理がエレガントでねぇ。


なお、ぼくのフレンチ・レストランの趣味を伝えるならば、
ぼくが好きなレストランは、接待利用客の比率が低く、自分のおカネで食べている客が中心であること、
料理が創造性に富んでいて、おいしく、ポーションがちゃんとあって、満足感が高いこと、
それでいて、適度におしゃれな空間で、ていねいなサーヴィスがあること、
具体的には、アラジン、ラ・ターブル・ド・コンマ、ル・マノワール・ダスティン、
はたまたラブレー、かえりやま、そしてキャス・クルート、
そしてポストモダンフレンチでは、レフェルヴェソンスを愛してやみません。
ただし、最近の世間のフレンチの話題はちょっと風向が変わってきているみたいですね、
一方で、お洒落な空間でお洒落な体験を格安に提供するファッショナブルな、chez tomo 銀座店、
あるいは、良い肉をより安く、ガツン系のおいしさをふるまうコスパのOGINOの話題をよく耳にします。
なるほど、両極端の両店がそれぞれのファンに人気である理由は頷けます、
が、ぼくが最近のお店のなかでもっとも好きなのは、なんと言ってもun 十で、
un 十は、空間こそ、ミニマルで、おしゃれ感がやや不足しているものの、
とはいえ、その空間は清潔で気持ちがよく、サーヴィスも人柄のあるサーヴィスで、
そしてなによりも、料理はエレガントで創造性に富み、多彩で、
しかもポーションがちゃんとあって、満足感も高く、
好きにならずにはいられません。





さて、じゃあ、せっかくだから、もっと知りたい人のために、徹底紹介に移ろっか。
un 十って、麻布十番のピーコックの前の、飲食ビルの四階にあって、
エレヴェーターのドアが開いたら、
いきなり敷石と小石が敷きつめてある短いエントランスがあって、
フレンチの癖してそこだけ料亭みたいで、
奥も見えないし、怪しげにジャパネスクなんだけど、
ただし、ほんの七歩ほど進めば、開放的なダイニングが広がっていて。
おしゃれすぎず、カジュアルすぎず、ニュートラルな内装。
もしも内装が恵比寿のモナリザくらい、ほどよくクールで、
ほどよくファンシーだったなら最高なんだけれど。


でもね、料理は素敵においしいんだよ。
まずは、「魚貝鍋ブイヤベース、マルセイユの一ツ星レストランふう」。
ブイヤベースって早い話が、魚貝の鍋ですよ。
ビストロでも、レストランでも作るし、いろんなスタイルがあるものだけれど、
いやぁ、山崎シェフ作ると、貴族的なんですよ。
魚は、ウマヅラハギ、的鯛、鱈、平アジ、ホウボウ。
ダシのうまみが深く立体的でね、
なんと、オマールの頭とアジの頭のだしと、ホタテのだし、
白身魚の頭のだしを別々にとって、調合してあるそうな。
しかも、調理過程ではトマト、セロリ、サフラン、ニンジンが用いられながらも、
うまみだけをしっかりもらって、
最後には捨てられ、皿には姿も見えない、
なんちゅう贅沢な料理よ♪ 


しかもね、山崎シェフのブイヤベースはね、
いくつものヴァリエーションがあってね、
別の日にいただいたときは、だしのうまみが奥行きを備えているのみならず、
具材のなかに山芋、オカヒジキ、そして
「フォアグラの脂でコンフィした黒丸大根」が入っていてね、
びっくりしたよ、おもしろいことを考えるもんだねぇ。
しかもブイヤベースの底に、ブロッコリーのピュレを敷いてあって。
こんな料理を出していただけるんだもの、
長年フランス料理を食べこんできて、良かったな、っておもうよ。


「カルパッチョ」がグラマラスで、超エレガント、
カルパッチョなんて呼ぶことじたいが失礼に当たりそうなほど優美なカルパッチョなんだよ。


「サーモンのコンフィ」がまた優美なんだ、
キュイソン(火の入り具合)のデリケートなこと、美少女の肌のようにしっとりしていて、
しかもラベンダー風味のハチミツをつけ、葡萄ジュースのソースを添えてあって。
しかも、盛りつけには、黄色や紫色の美しいプロヴァンスの花びらがあしらってあって。
そのサーモンの肉質の優美なこと、40度で20分の火入れだそうな。
40度の火入れなんてはじめて聞きました、
いやぁ、火入れに緻密なシェフはけっしてカンテサンスの岸田シェフだけじゃないんです。
なお、やや余談ながら、食用花を、耽美主義の表現に用いるのは恵比寿モナリザ、
マダムの不倫への誘惑のまなざしのように演出するのが銀座グッチカフェ、
そして、食用花をレストランフレンチのチャームとエレガンスの象徴として扱うのが、この山崎シェフですよ。
山崎シェフはお洒落に関心はないだろうけれど、
ただし、その料理の姿は、(喩えて言えば)キットソンのポーチが大好きなお嬢さんや、
シンシア・ローリーのファッションに夢中のお姉さんに愛されたい、という意思があって。
それでいて、けっしてチャラいフレンチにはしない、料理人魂もまた燃えていて。


「モサエビのタルタルと、アヴォカドのムースリーヌ、モサエビの頭のゼリーを添えて」、
これがまた優しく、穏やかな、味を揃えて、なんともデリケートな対比を構成してあって。
小品ながら、山崎シェフの舌の良さと、上品な資質がよくわかるんだ。


「セイコ蟹のロワイヤル」、これがまたすばらしい、
身も蟹みそもほぐしてスープに入れ込んであって、
優美でエレガントでありながら、うまみはゆたかで深く、
あえてかすかに蟹の殻の小片を食感の愉しみのために残してあって、
魚貝を愛してやまない山崎シェフの美質が息づいていて。
いやぁ、アラジンの川崎シェフの、「蟹のロワイヤル」の、あの貴族的な優美に迫る高みを、
山崎シェフは表現していて。


「寒ブリのパネ(パン粉焼き)、野菜のジュと甲殻類のだしをクリームでつないだソース、おいしい野菜やキノコとともに」、
これがまた、ポーションもそこそこあって、寒ブリはふっくらおいしいし、パセリとチーズを混ぜたパン粉はキュート、
レモン汁をかけてロティしてあって、ソースとともに野菜もたくさん、
ニンジン、サトイモ2種も食感が残してあって、野菜を食べるよろこびも満喫できるし、
アワビダケもユーモラスな食感、食べいてたのしいの。


そのほか、メニューには載っていないものの、電話予約のときにリクエストすれば、出してくれそうな料理として、
「ホウボウのコンソメ煮、フォアグラのムニエルとマツタケ入り、トリュフを削って」、
はたまた「アンコウと、とろとろアンキモと、ほくほくじゃがいもの、
ローストアンサンブル、煮詰めたトマトと、白貝を添え、
フォン・ド・ヴォーベースの赤ワインソースを流して」もおいしい、
変わったところでは、
「豚足の内側に、上品に煮た白身魚を詰めて、
優美なクリーム色の大根の濃厚なブルーテのなかに」も、おいしかったなぁ。
豚足のゼラチン質の食感のなかに、上品な魚が詰まっていて、
ブルーテがまたエレガントでねぇ。おっもしろい一品!


しかも山崎シェフは肉料理がまたすばらしく、
たとえば、若狭牛をじっくり一時間半(ベンチタイムを挟みながら、
何度も低温の火に、かけては下ろし)グリエし、
コンソメで仕上げた一品も、超おいしい。
肉汁を一滴も漏らさず、内側に肉汁たっぷりぱんぱんに封じ込めてとびきりジューシーに焼き上げてあるんだ。
こういう焼き方は、アラン・パッサール~カンテサンスの岸田シェフの系譜。


あまりにおいしかったので別の日にアンコールしたら、
今度は、「若狭牛の低温グリエ、京ニンジン、
ムラサキニンジン、ニンジンのロティ添え」を出してくれた、
すんばらしくおいしいんだ。


若狭牛の塩釜焼き(塩包み焼き)もおっもしろい料理だった、
塩を卵白でつないで石灰状にして、(白菜で巻いた)若狭牛を、
その石灰状のもので厚く覆って、若狭牛を焼きあげる。
焼きあがった若狭牛は、薔薇色で、しかも食感は柔らかく極上でありながら、
くにくにいつまでも噛むことができ、
ほかの加熱法ではありえない種類の、なんともふしぎな噛み心地。


「鴨の低温ロティ、ソース・サルミ」も、火にかけては休ませ、かけては休ませを
繰り返して丁寧に焼き上げる、そんな焼き方ならではの、
ジューシーで、きわめて優美なぐにょぐにょの、ひじょうにおもしろい食感になっていて、
しかもサルミソースは美しく輝く茶色でね、
味わいは深く、なめらかなだけじゃなくて、ツブツブ感がかすかにあって、
これはソースに含まれる鴨の内臓の名残だそうな。
つけあわせのカブやシイタケのロティ、あざやかに黄色いカボチャのピュレも、
皿の上の美に貢献していてね。





さて、これだけ優美な料理を作る山崎シェフがどんな人かっていえば、
筋肉質の中肉中背で、がたいが良くて、
髪の毛は黒くかすかに癖毛で、前髪はヴォリュームある「ひさし」になっていて、
よく見ると、おでこの髪の生え際にVの字の剃り込みがあんの。
マッチョ系なんだよ。
それにしても人間ってわからないもんだよねぇ、
あれだけ優美な「カルパッチョ」や、
「サーモンのコンフィ、ラベンダーとハチミツのソース・ヴェルジェ」を作る人とは、
とうていおもえない。
でも、そんな山崎シェフも、
お客には、いちげんのお客にも常連にも分け隔てなく、
人なつこい笑顔でテーブルに挨拶に来られ、
腰低く、サーヴィス精神旺盛に、本日のお魚を愛情たっぷりに紹介したり、
お客の好みの料理を訊ねたりなどしておられて。
そして、お客からなにかリクエストが入ると、
いそいそ、うれしそうに、厨房へ戻ってゆく。
そう、山崎シェフはファナティックな料理人でありながら、
「記念日のお客さんの、大切な日を永遠のおもいでに残すために、
裏方としても、ぼく、ちゃんとがんばってますよ」なんてまっとうなことも言うんだよ。


もっとも、そんな un 十にも、難点もまたあって、
たとえば、ワインの状態は、格安価格相応に普通です。
(ただし、それはしたしみやすさを演出するun 十のかりそめの姿でもあって、
もしも状態最高の、酸が綺麗に立った、美しく澄み渡ったおいしさの、
いくらか高額のワインを飲みたければ、
実は、裏メニューがあって、赤い表紙のワインリストがそっと手渡されます。
それはまさに、「シャンドン・ド・ブリアーユはね、モエ・シャンドンの親戚で貴族なのよ。
自宅にはお抱えの料理人がいてね」なーんて会話で、
瞳がキラリと輝く人のための、宝石箱のようなワインリストです。)
あとね、デセールがやや弱いかしら。
とはいえ、ぼくにとっては、
料理があれだけすばらしいんだもの、ぜんぜん気にならないけれどね。


ディナータイムは、ムニュun 十 6500円と、
ムニュ・スペシャリテ8800円のふたつのコースと、
各種ア・ラ・カルト。サーヴィス料、10%。
また、電話予約のさいに、
希望食材や希望料理をリクエストすれば、応じてくれるみたいですよ。





un十は、東京メトロ南北線4番出口、
あるいは大江戸線、麻布十番駅7番出口から、
いずれも徒歩、四分ほど。
麻布十番の大丸ピーコックの正面の、
(一階が、一粒270円のショコラ屋さんア・ラ・レーヌ・アストリッド の入った)
飲食ビルの、四階です。
エレヴェーターのドアが開いたら、
いきなり敷石と小石が敷きつめてある短いエントランスがあって一瞬とまどうけれど、・
その先には、素敵な、<お皿の上のプロヴァンス> が待っています。


なお、un 十 をデートに使うときは、
フルコースを食べ終わった後、エレヴェーターで九階に昇って、
ブラッスリー・アジル・ジョーヌで、東京タワーの夜景を眺めながら、
コーヒー、エスプレッソ、紅茶、ハーブティーをなにかいただくのも、おしゃれです。


なお、採点に4.5点をつけた理由は、料理の多彩な創造性への賞賛を込めて、です。


2010年6月に開店したこの店は、2012年3月末日で閉店するそうな。なかなか難しいですね。


ぼくと女友達とインド料理、ときどきフランス料理。
http://www.doom.now.cc/rvwr/000436613/

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2位

ケララの風Ⅰ (大森、大森海岸 / インド料理、インドカレー)

1回

  • 夜の点数: 5.0

    • [ 料理・味 5.0
    • | サービス 3.5
    • | 雰囲気 4.0
    • | CP 5.0
    • | 酒・ドリンク 4.0 ]
  • 昼の点数: 5.0

    • [ 料理・味 5.0
    • | サービス 3.5
    • | 雰囲気 4.0
    • | CP 5.0
    • | 酒・ドリンク 3.5 ]
  • 使った金額(1人)
    ¥4,000~¥4,999 ¥1,000~¥1,999

2010/10訪問 2013/12/05

ケララの風、第一期の伝説。

ケララの風の第一期、沼尻オウナー&瀬島料理長時代は、
2008年7月20日日曜日にはじまり、2011年5月30日月曜日に終わった。
(商業的成功こそ得られなかったものの)、
ケララの風が示した、インド料理の未来、希望、可能性は、
かけがえのないものでした。
そして、いま、沼尻オウナー・シェフ時代の、
ケララの風Ⅱは、2011年6月22日 に新装開店し、
きょうも元気にランチタイム営業をしています。
http://r.www.doom.now.cc/tokyo/A1315/A131502/13127788/
(ぼくのレヴューは、http://www.doom.now.cc/rvwr/000436613/rvwdtl/5144393/
ここにケララの風第一期を、まとめておきましょう。





ケララの風の沼尻オウナー&瀬島料理長時代は、
それはたんに南インド、ケーララ州の料理をふるまうレストランであるにとどまらず、
ランチタイムミールス、ディナータイムの2000円セット、
4名以上予約制ビリヤーニ、予約制おまかせ4000円ディナーのすべてにわたって、
すばらしく現地っぽい料理でありながら、
なおかつ同時に、ひじょうに優美で気品に満ち、
しかも、料理人・瀬島徳人(せしま・のりひと 1980年、富山生まれ)の表現になっていて、
わたしたちは、瀬島料理長によって、はじめて、
インド料理もまた、(フランス料理と同じように)、
あるいは音楽や、絵画、小説のように、
ある固有名をそなえた、あるひとりの表現者の表現で(も)ありえることを知りました。


瀬島料理長の料理は、インド人セレブたちに愛され、
インド料理のシェフたち、表参道シターラのロイ・シッタールダ・シェフ、
小岩サンサールのウルミラ・シェフ、大久保ムットのムット・シェフに賞賛され、
かつまた麻布十番エルブランシュの小川シェフを筆頭に、
フレンチの料理人たちにも、おもいがけない場所で見つけた、
自分たちの仲間として、驚きとともに賞賛されました。
これだけ多くの一流の料理人たちに愛されるインド料理の料理人は、
瀬島料理長以外に、想像することができません。
また瀬島料理長の料理のファンには、美女率が高く、
美女たちは、瀬島料理長の料理の優美なおいしさと、
爽やかな創造性にうっとり目を輝かせるのみならず、
料理に息づく、瀬島料理長の心の優しさをも愛したものです。


では、それだけすばらしい料理が、どうして商業的な成功を得られなかっただろう?
実はケララの風を愛する者たちは、その理由もまたわかっていて。
なぜって、ケララの風は、日本人のインド料理についての「洞窟のイドラ」
(=実体を欠いた先入観、偏見、幻想)と闘いを挑んだ。
日本人のインド料理についての「洞窟のイドラ」とはカレーライスであり、
あるいは、ナンとタンドリーチキンと
キーマカレー、バターチキンカレー、チャイです。
瀬島料理長の料理は語っていた、
けっしてナンとタンドリーチキンと、
バターチキンカレー、チャイだけがインド料理じゃない。
インド料理の世界は、もっと無数にあって、
それはきらめく星座なんだ。
可能性は無限に潜んでいる。
ぼくがその可能性を見せてあげるよ。


しかし、瀬島料理長の料理は、カレーライスおたくのウケは凸凹で、
軽やかで優美においしいミールスこそそれなりに広いファンを育てたものの、
しかし、ディナーは、絶賛と無理解に、ともにさらされました。
なるほど、それも道理ではあって、
なぜって、瀬島料理長の料理は、
ナン、タンンドリーチキン、バターチキンカレー、サグカレー、チャイといった世界から、
百万光年の彼方にある料理であり、
なかには、パチャカリシチューのようなどう見てもシチューな一品もあって、
いくらそれがおいしくケーララ料理にそれがあるにせよ、
キーマカレー、バターチキンカレーを前提に食べに来た客に、
パチャカリーシチューは、ただ面食らうばかりだったことでしょう。
また、あのすばらしいおまかせ4000円ディナーにいたっては、
フランス料理としてふるまった方が、まだ理解と賞賛が得られやすかったとおもわせるほど。


けっきょく、ケララの風は、
ナンもタンドリーチキンもバターチキンカレーも存在しないメニューで、
ランチタイム、・ミールス、ディナータイムは、
ア・ラ・カルト、2000円セットメニュー、予約制ビリヤニ、4000円おまかせディナーで、
三年間、日本のインド料理の洞窟のイドラと闘いを挑み、
かなり善戦しながらも、しかし、けっきょく、敗れてしまう。
なるほど、商売の見地から見れば失敗には違いない、
でも、それは、多くの人を驚かせ、感動させ、
美女たちをうっとりさせる、かけがえのない、すばらしい夢でした。


おそらく、場所選びにも問題はあって、
瀬島料理長の料理は、あまりにも先端的でエレガントなインド料理であったゆえ、
ロンドン、ドバイ、シドニー、メルボルン、パリ、ニューヨーク、ロスアンジェルスならともかく、
いいえ、百歩譲って、代官山、白金、青山なら、
もっとたやすく、さらにいっそう多くの人たちに愛されたでしょうに、
大森で、あれを出すのは無理だろう、という声は当初からあったし、
じっさい、そのとおりだったのでしょう。


また価格設定と原価率もあまりに良心的で、
ケララの風ミールスは1000円でおかわり自由、チャイもしくはコーヒーつき、
もちろん利幅が薄く、
せめてチャイとコーヒーは別料金にすればよかったのに、
と、おもわずにはいられませんでした。
しかも、ミールスばかりが人気になり、ディナーへの誘導が弱く、
広報が下手であり、
途切れることなくパブリシティに恵まれたにもかかわらず、
逆に、(沼尻さんがおっしゃるところによると)、
「人気店だから、きっといつも 混んでるんだろうな」とおもわわれ.、
しかし、実はじっさいには客足が伸びず、
けっきょく、土日のミールスこそ繁盛したものの、
安定的集客と、経営的な成功は、最期まで得られませんでした。


沼尻オウナーは、高い質を守りながら、なんとか店を維持するため、
さまざまな努力を日に影に続けてこられましたが、
しかし、ここ二年、じょじょに在東京インド人は減っていたろころ、
しかも、3月11日の地震・津波・原発事故で、インド人がいっせいに帰国、
そうなるとお客にインド人率の高かったケララの風は、もはや万策尽き、
沼尻オウナーは、2011年5月11日17:02、ケララの風の6月末閉店を、
ミクシィ日記に発表。
驚いたのはケララの風ファン、
さすがに順風満帆とまではおもわなかったにせよ、
まさか閉店に追い込まれるほど経営が逼迫しているとは、
夢にもおもわず、誰もが驚き、嘆き悲しんだもの。
しかも、翌日12日、19:22には、閉店日が一ヶ月早まり、
五月末日に訂正されました。
むろんケララの風ファンはあわてて、予約電話を入れ、
その翌日13日13:47には、
五月末日までのディナーは全日満席に。
ランチタイムミールスは予約を取らないゆえ、
毎日行列ができ、早い日は朝の11時から行列ができ、
開店の11時半には満員、二回転で売り切れごめんなさい状態が連日のことになりました。


ケララの風の閉店を惜しむ声はあちこちで語られ、
嘆き、悲しみの声はかまびすしく、
たとえば、東葉勝田台のすばらしい南インド料理店、葉菜の吉田シェフは、
「沼尻さんはぼくの師匠だし、ケララの風は、同志だとおもっていたから・・・」と悲しみを隠し切れませんでした。
ツイッターを見てもケララの風のつぶやきは数百にのぼり、
食べログには、熱のこもったレヴューが次々と上がり、
カレーブロガーたちは、争って、なんとしてでも、
ミールス、ビリヤーニ、4000円ディナーを食べたがり、
それはほとんど争奪戦のような様相を呈したもの。
一軒のレストランの一時閉店で、ここまで熱烈な賛辞と惜別の声が聞こえてくるのは、
じっさいのところ、銀座のロージェの閉店のとき以上ではないかしら。


瀬島料理長は、猛烈な忙しさのなかにあってなお、
質だけはゼッタイに高く維持すべく、睡眠時間を削りながら、毎晩夜明け近くまで仕込みを続け、
もちろん沼尻オウナーも、恵美子さんも、毎日毎晩戦場のような忙しさ。
沼尻オウナーは、ランチタイムの客が入口付近から池上通りまで列を作るなか、
ミールスバケツを持って、テーブルをまわりながら、
「閉店バブルですよ」と自嘲気味に笑っておっしゃいましたが、
しかし、沼尻さんの心のうちの悲しみは、察するに余りあります。


ケララの風の瀬島料理長時代は、
明らかに、インド料理の未来に向けて開かれた窓でした。
窓からは、気持ちのいい風が吹き込み、
わたしたちは見たことのない景色をいくつも見て、
それはまさに夢の旅路でした。
瀬島料理長は、拍手喝采と無理解の混在するなかで、
ほぼ三年、よくぞ、自分が信じる最高の表現を貫きとおしたもの。
それはほんとうに賞賛に値することだとおもう。
沼尻オウナー、瀬島料理長、沼尻さんの奥様、三年間、ありがとうございました!





ケララの風Ⅱは、経営規模を縮小し、沼尻さんのオウナー・シェフひとり厨房体制で、サーヴィスは奥様、
街場の気さくなミールス食堂として、ランチタイムのみの営業として、2011年6月22日新装開店しました。
ケララの風の瀬島料理長時代が、レストラン料理の華ならば、
ケララの風Ⅱには、街場の食堂の幸福があります。


ぼくと女友達とインド料理、ときどきフランス料理。
http://www.doom.now.cc/rvwr/000436613/

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3位

コム・ダビチュード (池尻大橋、三軒茶屋 / フレンチ)

1回

  • 夜の点数: 4.5

    • [ 料理・味 5.0
    • | サービス 3.0
    • | 雰囲気 3.5
    • | CP 5.0
    • | 酒・ドリンク 3.0 ]
  • 昼の点数: 4.5

    • [ 料理・味 5.0
    • | サービス 3.0
    • | 雰囲気 3.5
    • | CP 5.0
    • | 酒・ドリンク 3.0 ]
  • 使った金額(1人)
    ¥6,000~¥7,999 ¥4,000~¥4,999

2010/11訪問 2021/10/06

釜谷孝義シェフは、毎日食べたい大盛りごちそうフレンチを創造した。

中目黒での開業、そして世田谷区三宿への移転を経て、
計14年間営業を続けてきたコム・ダビチュードが、
建物の老朽化に伴う取り壊しのため、
2010年10月30日(日)を最後に、幕を下ろした。


フランスへのあこがれでなく、見栄でなく、
フランス料理の技術と精神をまっとうに継承しながら、
毎日食べたいごちそうフレンチを独自に創造し、
大盛りで、廉価にふるまう。
釜谷シェフの創造した、フランス料理の、あるひとつの世界は、
かけがえのないもの。


再開の日を切望しています。
むろんそれはぼくだけの願望であるはずはなく、
多くのコム・ダビチュードファンの願いです。
なぜって、いま、混迷のなかで迷走する東京フレンチに、
釜谷シェフの料理こそは、まっとうななにかを、熱く伝えるものだから。


+++++++++++++++++++++++++


三宿のコム・ダビチュードは、ほどほどにおしゃれな空間で、
すばらしくおいしい料理を安い値段で食べることができるレストランでね、
いっけんしたところ地元の人たちに愛されるちいさなレストランって印象だけれど、
実は世田谷フレンチに、いや、東京フレンチに(!)欠かせない名店なんだ。
ちいさなレストラン、テーブルの間隔も狭い、
テーブル席が5卓12席と、カウンター席が4席の計16席。
晴れた日のランチへ行けば、店内は午後の日差しを浴び、
小さな薄い器のなかに花が浮かび、
上品な世田谷マダムたちがおいしそうに、料理を召し上がっています。
ディナータイムに食べに行けば、
そこは、食いしん坊の集う、アト・ホームなごちそう空間。
しいて難点をあげるならば、ワインの状態がふつうだけれど、
ただし、値つけも安いんだもの、良心的。


料理は、オーソドックスで、それでいて独創的。
たとえば最近のフレンチでは軽く見られがちなスープだけれど、
釜谷シェフは、野菜やキノコのスープにしても、
肉のだしの染み渡ったスープにしても、
そのおいしさを多彩にご存知で、冷菜、温菜に、
多彩にエレガントに使います。


また、コム・ダビチュードは、おいしい野菜を多彩に使って。
野菜欠乏症のときなど、体が野菜のおいしさにうれしがります。
肉の扱いも巧く、火入れも抜群。
ブランド肉でなくとも抜群においしく仕上げるとともに、
それでいてジビエなどは、がんばって仕入れておられます。


また料理はオードヴルからたいてい大盛りながら、
一皿の料理の構成がおもしろいので、
食べていて飽きることがありません。
(このへんの話は、後ほどしっかり語りましょう)。


パンも自家製、プレーンなパン、黒ゴマのパン、紅芋のパン、
モロヘイヤのパン、全粒粉のパン、
いずれも表皮は堅めにこんがり焼き上げられ、内側は稠密、
もしもパンだけ食べたなら、ぼそぼそした愛想のないものだけれど、
しかし、ワインや料理と一緒に食べると、抜群においしい。


フロマージュがまた、ひと手間かけた趣向があって、
しかもそれぞれパンとの併せ方がおもしろい。
たとえば、クルミ&レーズンのパンに
「ピエダングロアを黒糖の焼酎に漬けて、桜の葉に包んだもの」
(桜の葉のいい香りがついていてね、
しかもフロマージュに焼酎の味わいが奥行きを作っていてね)。
イチジクのパンに「カマンベールに、
フラ・アンジェリコというヘイゼルナッツのリキュールに漬けこみ、
ヘイゼルナッツのパウダーをまぶしたもの」
これがまた優美な味わいなんだ。
バゲットに「ポン・レベックをカルバドスに漬け込んで」、まったりおいしくてね。


しかも値段が安い。平日ランチは、1575円からあって、
三皿に、デザートとコーヒーで、3575円。
四皿ならば、4200円。


ディナーならば、三皿に、チーズとデザートとコーヒーで、4200円、
四皿ならば、6300円プリフィックス。
いやぁ、いずれも、なんともすばらしいコースなんだ。


そうそう、ディナータイムはね、位置皿とパン皿が、ロアール地方の Gian の、
お花と果実の絵の描いてある、綺麗なお皿でね、素敵なんだよ。
ロワールは、釜谷シェフの修行先のひとつだそうな。





では、印象的な料理をいくつか語ってゆきましょう。


まずね、冷菜「メリメロ・サラダ」
meli-melo、ごちゃごちゃ、いわゆるシェフの気まぐれサラダ。
ただし豪快なんだ、鴨の燻製、スズキ、ヤングコーン、レンコン、トマト、
スモークサーモン、カブ、インゲン、ブロッコリー、
庚申大根が、ひとつづつの野菜に的確な調理をほどこしてあって、
どーんと盛ってあって、ミントソ-スが添えてある。
ひとつひとつの野菜がていねいに調理してあって、実においしい。


冷菜「とりどり野菜の煮こごり仕立て」
大根、ニンジン、トマト、カブ、レンコン、ズッキーニ、ラディッキヨ、
カットがでかいんだ、しかも上品な味の野菜のブイヨンの煮こごりが、
優雅にかかっている。野菜がしっかり食べられ、とてもおいしい。


冷菜「サツマイモの冷たいポタージュのなかに、秋鮭のソテーに燻製風味をつけ、
野菜のブイヨンのゼリーを乗せた一品、(通称 秋鮭の燻製、パリの夕暮れふう)」
冷菜ってところがかっこいいんだ。
しかも鮭の燻製の香りがついていてね。
冷菜で香りがいいってところがいいでしょ。
しかもサツマイモポタージュなんて、
言葉だけ読むとどんくさい田舎料理みたいだけれど、
実は、ひそかにエレガントで気品があってね。


温菜「キノコのフラン、キノコのポタージュとともに。」
淡いカフェオレ色の熱々フラン(キノコ風味の茶碗蒸し?)が、
泡立つキノコの暖かいスープのなかにあります。
シイタケ、エリンギそのほか使われているそうだけれど、
ミキサーをかけて裏ごししてあるため、フランにもスープにも姿が見えません。
クリーミーな淡いトーンの色彩が美しく、キノコたちのおいしさもとてもいい。


魚「泡立つゴボウのスープ、真鯛のソテーを沈ませ、大量のゴボウのチップを飾って。」
深みのある優美なポタージュ、
しかもポタージュスープの上には、
千切りのゴボウが揚げてあって、これがクルトンの役目になっている。
乾いたまま食べればカリカリの食感、ポタージュを吸い込むとしなしなの食感。


肉「フォアグラのパネ、薄切りレンコンのマデラ酒煮を乗せて。」
pane とはパン粉(あるいはコロモ)をつけて揚げる調理法、すなわちフォアグラにコロモをつけて揚げてある。
フォアグラをパネのその上に
薄切りレンコンのマデラ酒煮が乗せてある。おいしいなぁ。


肉「仔羊の腿肉のロティの上に、ズッキーニのフリットを乗せて。
じゃがいものピュレを敷き、レンズ豆のポタージュを流して」
仔羊の肉質は良く、いかにも優美で、
しかも上に乗せてあるズッキーニは切り方がバトネ(マクドナルドのポテトフライの大きさ)で、
表面はカリッとフリットしてありながら、噛むとジューシーなんだ、繊細な味わいでね。
またレンズ豆のポタージュが、気品があって。
エレガントなおいしさだったよ。


肉「和牛カイノミのロティ(=ロースト)、エシャロットと赤ワインソース。」プラス料金1575円
実はこの料理はぼくは食べていないけれど、
料理の色艶、そして食べているときの友人の笑顔を見て、
すばらしくおいしいことが、手に取るようにわかったもの。


肉「トリプの煮込みをクラシックに、モードカーンで。」
トリプは、イタリアンでいうトリッパ、すなわちハチノスのこと。
イタリアンではトマトソースにしちゃうけれど、
フレンチは違うんだねぇ、はじめて知った。
この料理は、ノルマンディのカーン地方の伝統的料理だそうな。


トリプをシードル、白ワイン、カルバドスに一晩漬けて柔らかくしてあるそうで、ふんだんな野菜一緒に煮込んである。
トリプじたいは、なめし皮みたいなもの、
表面に粒粒みたいな凹凸があって、また、くにくにした食感がおもしろく、
また、そのトリプがシードルのフルーティな綺麗な甘さをもらっていて。
それをつけあわせの穏やかなマスタードをちょいとつけて食べる。
しかもトリプもさることながら、むしろこの料理の主役は野菜ではないかというほど、
野菜がどれもおいしく、
なにしろ、スナップえんどう、ブロッコリー、カリフラワー、
じゃがいも(インカのめざめ)、トマト、薄切りレンコン、
クリ、カブ、シャトー切りのニンジン・・・凄いでしょ、
これが釜谷シェフですよ。栗の噛み心地なんかもおもしろくてさ、釜谷シェフらしいんだ。
しかもトリプのだしがよく染み出したスープが
上等のコンソメのようで、超おいしいの。


まだまだおいしい料理がいっぱい潜んでいそう。
季節の替わるのがたのしみですよ。





釜谷(かまたに)孝義シェフは、1963年 神奈川県横須賀市生まれ。
釜谷シェフの料理には、実があってね。
ありすぎるくらい、実がある。実の塊みたい。
料理は創造性に富んでいて、
喩えるならば、デッサンの線が太く、それでいて質のゆたかなふくらみがあって、
おいしさが深く、それでいてそのおいしさは必ずしもフォンとバターに頼るむかしふうのおいしさばかりではなく、
さまざまなおいしさの作り方を多彩にご存知で、必要に応じて、適度な軽さが与えられる。
それでいて、ポーション(盛り)はつねに大盛り。
しかもね、大盛りったって、飽きずに、それどころか味がいくつも現れてくる料理だからこその、大盛りなんだ。
食べるだけでわかる、
釜谷シェフにとって、フランス料理は、薄っぺらな流行にノルことじゃないって。
釜谷シェフは、誰にも増してフランス料理の技法を高く身につけながら、
それでいて、フランス人にあこがれたりしない、基準は釜谷シェフの胸のなかにちゃんとある。


そりゃあたしかに、コム・ダビチュードにだって難点はあって、
たとえば店は狭いし、テーブルの間隔もぎゅうぎゅう、ワインの状態は極上というほどではない、
そういう意味では、もしかしたら「値段相応」に感じられるかもしれない。
でもね、料理好きとして言わせてもらえば、コム・ダビチュードはかけがえなくすばらしくって、
ミシュラン東京版掲載店の四割の店より、だんぜんおいしい。
(そもそも、ミシュラン東京版のフレンチ評価は、わけがわからない。)
それでも、かの地、フランス版ミシュランは、いまなおほどほどの公平が保障されてるらしく、
しかもミシュラン読みもまた、その評価基準をよく理解していて、
なかには、「二ツ星、三ツ星は値つけは高いし、料理は前衛で、食べていてくたびれる、
むしろ、ほど良い値段で、食べてただひたすらおいしいのは、だんぜん一ツ星!」
なんてことを言う食いしん坊も多いとか。
そういう意味では、まさに、溜池山王、仏蘭西厨房かえりやまや、
そしてこの三宿のコム・ダビチュードこそ、そんなレストランでね。


しかもそれはけっしてぼくがだけが感じることじゃなく、
ぼくのしたしい若い料理人たちに釜谷シェフの話をすると、
みんなたいてい釜谷シェフの話題をひとつやふたつ持っていて。
たとえば日々谷公園の南部亭料理長時代のことや、
そのときの部下がいまレカンの料理長を務めているとか、
コム・ダビチュードがむかしの場所で、
ガラス張りのオープンキッチンのときの釜谷シェフがかっこよかった、とか、
それどころか、釜谷シェフはもっともっと賞賛されるべきシェフなのに、
釜谷シェフへの評価はまだまだぜんぜん足りない、なーんて自分のことのように憤慨したりする。
みんな釜谷シェフのことが好きなんだ。





コム・ダビチュードは、パンのテイクアウトを、はじめたようです。
プレーンなパン、
黒ゴマのパン、
モロヘイヤのパン、
全粒粉のパン、
いずれも一本315円。
バゲットをちいさめにしたような棒状で、長さは18センチほどです。


いずれも褐色の堅い表皮をしていて、小さいくせに、ちょっぴり重く、密度感を感じます。
内側は稠密でぼそぼそとした食感、噛み心地のあるタフなパンです。
モロヘイヤのパンにせよ、黒ゴマのパンにせよ、
パンだけ食べると愛想がないものの、
薄く切って、チーズを乗せたりワインと一緒に食べると、がぜんおいしい。


コム・ダビチュードは、
渋谷西口から、21番か、22番か、23番のバスに乗って、十分ほど、
三宿で降りて、前方へ少し歩くと、コム・ダビチュードは現れます。


住所    154-0001 世田谷区池尻2-7-4 ナオミアパート1階
電話    03-3487-7686(Fax共通)
営業時間  ランチタイム    11:30~14:00(L.O)
      ディナータイム  18:00~21:30(L.O)
定休日   火曜日、第3水曜日
その他   全席禁煙


+++++++++++++++++++++++++


追記


その後、釜谷孝義シェフはーーー。
2014年、神楽坂、「俺のフレンチ」
2017年、日比谷公園、「南部亭」
2018年、世田谷区奥沢(九品仏)「コム・ダビチュード」
2020年、銀座 「La maison du caviar 17℃」
を経て、現在はフリー。


ぼくと女友達とインド料理、ときどきフランス料理。
http://www.doom.now.cc/rvwr/000436613/

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4位

モナリザ 恵比寿店 (恵比寿、代官山、中目黒 / フレンチ)

1回

  • 昼の点数: 3.8

    • [ 料理・味 3.8
    • | サービス 4.0
    • | 雰囲気 3.8
    • | CP 3.8
    • | 酒・ドリンク 3.8 ]
  • 使った金額(1人)
    - ¥10,000~¥14,999

2010/11訪問 2021/10/06

すべては美女たちに愛されるため。

きのうは、料理研究家の女友達がアレンジする食事会に誘っていただいて、
そのレストランが、モナリザ恵比寿店だったので、
おぉ、さすがわかってらっしゃる、
と、ぼくは微笑みました。
なぜって、世の中にレストランは数多いけれど、
美女に愛されるためのレストランの数は少なく、
しかも、モナリザの美女たちへの献身が、
ぼくは好きだから。


モナリザ恵比寿本店の、ダイニングは、
遠目にはステーキハウスのような見かけながらも、
それでいて白い漆喰の壁に、白い天井、黒い柱、大理石の床、
白と黒を基調にしたクールな空間にしつらえてあって。
アクセントとして、造花があしらってあって、
ラヴリーでファンシーなニュアンスを添えています。
席間はいくらか狭いものの気になるほどでもなく、五十席。
また、半テラスふうの空間は、木枠の窓の、のどかな空間に、十六席。


モナリザ恵比寿店は、適度に気取ったカジュアル・レストランであり、
したがって、恵比寿のガストロノミー・ジョエル・ロブションのように、
豪華絢爛しこたま気張っているわけでもなく。
料理の創造性と格をおもえば、入りやすいレストランであって。
サーヴィスもまた、ミシュラン掲載店にありがちな、
質を守りたい気持ちが仇になって
結果ピリピリ神経質になったりすることもまったくなく、
むしろ、レストランモナリザに誇りをもっているスタッフが、
適度にくつろいで、たのしみながら、
かれららしいエンターテインメント感覚あふれるサーヴィスをふるまっています。


きのう(2011年7月4日)は食事会でしたので、
5000円コースをいただきました。
モナリザのなかではお試しコースながら、
それであってなお、わくわくするたのしさがいたるところにあって。


1)「サーモンと野菜のマリネ」、
プティオニオン、マッシュルーム、赤パプリカ、
黄パプリカ、セロリ、ニンジン、蓮根が華やかで、
酸味もひかえめ穏かにまとめてあります。


2)「輪切りのイカの内側に麦のリゾットを詰め、
アンチョヴィ風味のトマトソースを流して」は、
小品ながら、地中海の風を伝えてくれました。


3)「牛タンとじゃがいものパートブリック」は、
春巻ふうの皮のなかに、牛タンとじゃがいもを詰めて、揚げたもの。
河野シェフは、パートブリックがお好きで、
そこにどことなく倒錯的ユーモアを感じ、たのしい。


4)「マンゴー、ヨーグルト、ナタデココ、パッションフルーツのスープ仕立て」も、
いかにも河野シェフらしい、コップのなかで、
美味の小宇宙を構成する、カクテルのようなシリーズ。


5)そしてグランデセールは、色とりどりのお花畑のよう。


6)エスプレッソも香り良かった。


たのしかったなぁ。
ごちそうさまでした!





以下は、2010年11月に、一万円フルコースをいただいたときのレヴューです。
なお、ぼくはデセールをあまり食べませんので、
デセール外して、コースを組みました。


*アミューズ:かぼちゃのムースの上に、ニンジンゼリーを薄く一層挟んで、
生クリームとサワークリームをふんわり盛って。


1)セルクルで円形に仕上げた、
山芋とフロマージュ・ブランのタルト、紙のように薄いパイ生地の上に。
(山芋は一方でブリュノワーズに切り、他方でピュレにして、
フロマージュとあわせてある)。
ジュリエンヌにカットしたトリュフを散らして。
まわりに、ベイビーリ-フ、(一辺の長さが小指の爪の四分の一くらいの立方体、すなわち)"デ"にカットした山芋、
なめたけ、オレンジ色の食用花びらをあしらって。
山芋の和の味わいもおもしろく、またトリュフの香りも官能的、食べていてたのしい。


2)セップ茸(=ポルチ-ニ)と栗のロワイヤル。
サーヴされるにあたっては、紙蓋がしてあって、
その紙蓋の上に、小さな小さな栗のチップ、パセリ、クルトンが乗っていて、
それらを振り入れて、いただく。

セップのうまみがよくでていて、濃厚で、とてもおいしい。


3)白ワインとハーブで蒸しあげたウナギと、
その余熱で火を入れたフォア・グラ、
そして蒸しあげた里芋を、
まとめて春巻き状に包んでソテーし、
ソースペリグー(黒トリュフのソース)をベースに、
バルサミコと、パセリソースでアクセントをつけて。


とてもおいしい、実にマニエラバロックな一品。


4)金目鯛のムースの、パイ包み焼き、ソースブールブランに金盞花とトマトを混ぜて。
黄ニンジン、ラデイッシュ、ビーツをジュリエンヌにカットし、シラスをあしらってある。
パイは丸ごと皿に盛られ、熱々の状態。
ナイフでカットすると、ムースはいわば半殺しで、ほくほくの金目鯛の身の形も残され、
食べていて、たのしい。ブールブランのトマトも、上品に酸を効かせてあって、巧い。


4)仔鳩の胸肉をエビのムースで包んで、ロティして。
まわりに仔鳩の心臓や肝臓をソテーして添え。
仔鳩のジュのソースは料理に軽くかけてある上、
別添えの壺にたっぷり80cc。(うれしいねぇ)、
副菜として、シイタケ、エリンギ、ジロル、
トランペット・ド・モールのソテー。
ちゃんとまじめに仕上げたソースがたっぷりかかってるのは、良い料理人の証拠ですよ。
それに引き換え、近年のナウい系ヘボフレンチの店では、
見えないところにかけるカネをけちって、ろくなフォンも取らないもんだから、
バレないように、ソースはスプーンで15ccだったりするでしょ、
情けないよねぇ! そんなんだったら、フレンチなんて辞めちゃえばいいのに。閑話休題)。

ナイフを入れると、こんがり焼きあがったエビのムースの内側に、薔薇色の仔鳩が見える。
肉質も良く、火入れも完璧、実にジューシーな一品。
それにしても仔鳩の胸肉をエビのムースで包むところが、
いかにもマニエラ・バロックです。
とてもすばらしい!


*プティ・マドレーヌふたつと、オレンジピールの砂糖漬け。


*エスプレッソをダブルで。


別料金で白ワイン、赤ワインをいただき、
最後に、サーヴィスの方がカルバドスをふるまってくださいました。
パンも各種あって、コースの流れに応じて、
ライ麦パン、天然酵母のパン、バジルのカナッペ、胡麻のカナッペがふるまわれ、
どれもおいしかった。
また、どの料理もラヴリーで、蠱惑的なお皿とともにふるまわれます。
それらはすべて河野透シェフが、絵を描き、あるいはデザインをほどこし、ノリタケが焼いたものだそうで、
どうやらそれぞれの料理ごとに、その料理を乗せる皿が決まっているようです、
料理を引き立たせるとともに、テーブルの上に心のこもった、華やかな彩りを添えます。


2007年、ミシュラン東京版が出版されてからというもの、
ミシュランの権威は失墜する一方ですが、
そんなかにあってヒルサイドテラスのパッションと、そしてこの恵比寿モナリザは、
ミシュラン掲載店「であるにもかかわらず」すばらくおいしい、
と、ぼくのまわりでももっぱらの評判です。
むろん、それは当然のこと、
モナリザの料理、その美の過剰、人工性、そして倒錯。
フランスレストラン料理の、あるひとつの極端な輝きがここにあります。
もしも谷崎潤一郎や、三島由紀夫が召し上がったなら、
さぞや夢中になったことでしょう。


河野シェフは1957年宮崎県生まれ、
1982年に二十五歳でフランスへ渡り、
最盛期のロブション・シェフの、ジャマン、
そしてスイスの、これまた創造的な料理で一世風靡した
ジラルデ・シェフのもとでキャリアを積み、
90年に帰国後、広尾「レストランひらまつ」のシェフを経て、
93年に恵比寿「タイユバン・ロブション」初代日本人シェフを務め、
97年に、恵比寿にレストラン・モナリザを立ち上げ、
いまは丸の内店もでき、
河野シェフは、料理監督として、二店舗を統括していらっしゃいます。


河野透シェフ五十三歳。
恵比寿店の現場は、小暮シェフ三十六歳、
河野シェフの下で働いて、十年だそうな。
(小暮シェフは、あらゆる意味で、とても良いシェフです。)


世の中にレストランは数多いけれど、
美女たちがシンデレラになりに行くレストランでなければ、
存在価値はありません。
そしてモナリザは、そのことをどこよりも正確に理解していて、
しかも料理は、耽美で、ちょっぴり倒錯的。
好きにならずには、いられません。


ぼくと女友達とインド料理、ときどきフランス料理。
http://www.doom.now.cc/rvwr/000436613/

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5位

ラ・ターブル・ド・コンマ (駒沢大学 / フレンチ)

1回

  • 昼の点数: 5.0

    • [ 料理・味 5.0
    • | サービス 3.5
    • | 雰囲気 5.0
    • | CP 4.0
    • | 酒・ドリンク 4.0 ]
  • 使った金額(1人)
    - ¥15,000~¥19,999

2011/11訪問 2021/10/27

誰よりも野菜たちを愛したラ・ターブル・ド・コンマ、その23年の歴史に2012年1月31日(火)ディナーで幕を下ろす。

なるほど、ボキューズ、ロブション、デュカス、そしてブラスは伝説のシェフである。
レストランエルブリのシェフ、フェラン・アドリアは2000年代の最初の十年間
もっともスノッブなスターシェフたちのひとりだった、
いまいちばん話題のレストランは、デンマークのノーマらしいね。
そんな話題はたのしい、とはいえ、それを言うならば、同時に、
東京のル・マノワール・ダスティンの五十嵐シェフ、
アラジンの川崎シェフ、
そしてラ・ターブル・ド・コンマの小峰敏宏シェフは、最高にすばらしい。


そのくらい東京のフレンチの輝きを放ってきた
そんなラ・ターブル・ド・コンマが、
その23年の歴史に、1月31日(火)ディナーで幕を下ろすそうな。
営業は、1月31日(火)ディナーまで。
土日は微妙ながら、平日はまだ予約の取れる日もあるようです。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


賑やかで雑然とした表通りから、お店に入っただけで、
そこには、静かな時間が流れていて。
ぼくはウェイティングルームのソファに案内されました。
やがて、女友達が現れ、挨拶もそこそこに言いました、
「きょう、すごくたのしみ。」
卵型の顔にショートヘアがよく似合っていて、
ひかえめなまつげエクステのカールが愛らしく、
長い首、襟ぐりの大きいワンピース、
そして白いヒートテックの胸元で、
小さなトパーズのネックレスが清楚なアクセントになっていて。
彼女のそのお洒落は、いくらかはぼくをよろこばせてくれるためであるにせよ、
しかし、より大きくは、小峰シェフの野菜フルコース一万円(税・サ別)を食べるための、
いかにも彼女らしい、シェフへの敬愛の表現であって。


ラ・ターブル・ド・コンマのダイニングには、
静かで落ち着きがあって、いかにもヨーロッパの上品を感じさせます。
純白のテーブルクロスのかかったテーブルには燭台が飾られています、
(もちろん美女の瞳を輝かせるために。)
窓の外、お庭が見えて、たくさんの緑が輝いていて。
その佇まいは、地方都市のフレンチレストランのよう、
歯科医の家族や、ロータリークラブのメンバーの家族が、
ちょっとした日に食べに来る、そんなふんいき。
それでいて、料理は小峰シェフですから、
ウィリアム王子とケイト夫人をお誘いしたって、大丈夫。
(あ。サーヴィスがちょっと弱いかしらね。
でも、ケンブリッジ公爵夫妻ではないわれわれには充分です。)
え? そんなお店、スージーには似合わないだろ、って?
ま、空間だけ言えばそうなんだけどさ、
でもね、ラ・ターブル・ド・コンマは、小峰シェフの世界ゆえ、
30人にひとりくらいの比率で、ぼくのような、
もっぱら小峰シェフの料理を鑑賞するために、
目をらんらんと輝かせ、ノート片手に現れる(!)
そんなお客たちもまた混じってるんだ。





さて、コースを紹介しましょう。
小峰シェフは、謙遜に、
料理名をごくかんたんに書きますが、
ただし、料理は凄いです。


1)キノコと野菜のマリネ。
マッシュルーム、いんげん、キヌサヤ、ニンジン、
ズッキーニ、ビーツ、カリフラワーを、
別茹でして、オリーヴオイルとレモン汁にマリネしたもの。
「やや冷製」というふうな優しい温度で、清楚な香りがします。


2)フランス産キノコと岩手産キノコの煮込み。
フランス産はジロルとシャントレルなどキノコがいっぱい、
そこにフォア・グラが混じっていて、
官能的な香りと、まったりしたうまみを添え、
ちいさな栗も混じっていて、食感のおもしろさと優しい糖度を与えていて。
全体は、軽いバターソースでまとめてあります。


3)野菜の煮込み。
ニンジン、タマネギ、ブロッコリー、カリフラワー、
ポワロー、インゲン、ペコロス、ズッキーニが
蒸し煮(エテュヴェ)してあります。
カリフラワーにだけは、焦げ色がついていて、
さすが、小峰シェフ、仕事が緻密です。
華やかで、食べていて、楽しい一品。


4)白菜のロースト。
この一品が、凄いんだ。
世の多くのシェフたちのように、
正確な料理名を書くならば、
「白菜の葉の部分のロティ、根の部分のブレゼ、
豚バラ肉のラグー(煮込み)の小片、
スイスのアッペンツェラー産フロマージュの薄片、
そしてウイキョウの花を添えて」。


四角い皿の上に、白菜のそれぞれの部位が盛られていて、
二品構成のような趣です。
白菜がとぅるんとやわらかく、ほのかな甘みをともなって仕上がっていて、
目を閉じて味わうと、その食感は、和牛をおもわせます。
それでいてその繊維質はやはり白菜ならではのもので、
しかもその繊維がすべて微笑んでいて。
フロマージュの小片と豚バラ肉の煮込みの小片も、
良いうまみのアクセントになっていて。
ウイキョウの黄色い花が可憐で、しかもフェンネルに似た香りがあって。
(おそらくはなにかの肉のジュをベースにした?)ソースは穏やかで、控えめで、
あくまでも白菜の引き立て役にまわっていて、それでいてバランスは適切で、
なんとも優美なんだ。


5)ゴボウのタルトレットとゴボウのアイスクリーム(ぼく)/
洋梨のチップを飾った、ヴァニラアイスクリーム、
キャラメリゼした洋梨のローストの上に。(彼女)。
(あ、ごめんなさい、この料理名はぼくが書いちゃった、
小峰シェフは、こんなひちめんどくさい料理名の書き方はなさいません。)


ゴボウのタルトレットは、あたかも赤いフランボワーズのように見えながら、
実は、味噌なんです。こういうユーモアがまたチャーミングです。
ゴボウのアイスクリームも、上品で、
ゴボウから食感(繊維質)を引き算したとき残る、ゴボウの味、
(その穏やかな優しい味)をアイスクリームの甘さのなかで表現してあります。


6)エスプレッソダブル(ぼく)/紅茶(彼女)、
そしてちいさなショコラ7つ。


ショコラは、ちいさいけれど、ひとつひとつ味わいが違って、
驚きと楽しさが潜んでいます。


いやぁ、完璧なフルコースでした。
そしてぼくは、卵型の顔の首の長い美女に話します。





野菜フルコースって、いかにもどくとくな世界でね、
喩えるならば、西洋古典音楽の世界には、木管五重奏というジャンルがあって。
それはフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットに、
ホルンを加えた編成。
弦楽器も、金管楽器も、打楽器も、ピアノもないでしょ、
なんてふしぎな編成かしら。
木管五重奏は、響きが優しく、暖かく、魅力的だけれど、
にもかかわらず、弦楽器も金管楽器もなしの作曲は、
作曲家にとって手を縛られたように感じるんじゃないかしら。
それが証拠に、モーツァルトもベートーヴェンも書いていない、
なぜって、響きは柔らかく優しく美しいけれど、
しかしその優美な響きもいつまでも続けば、ともすれば眠けを誘い、
木管だけで起伏に富んだ音楽を作るのは難しく、
拍手喝采をもぎとる音楽に仕上げることはなみたいていではない。
したがって、多くの作曲家は、木管五重奏に手を伸ばさない、
わずかにヒンデミットやミヨーが作曲しているくらい。
そして、ぼくはおもうんだ、
料理人にとって、野菜フレンチのフルコースは、
まさに、木管五重奏曲の作曲に匹敵するんじゃないかしら。


さて、では、それができるシェフが世界中に何人いるだろう?
もちろん最初に出てくるシェフの名前は、
あの華麗なるガルグイユのミッシェル・ブラス・シェフでしょう、
それからアラン・パッサール? でも、もうその後が続かない。
そこに登場するのが、小峰シェフですよ、
あのスペシャリテの「十二種の野菜のエトフェ(蒸し焼き)」、
カボチャ、サトイモ、アマイモ、サツマイモ、
ポワロー、カブ、カリフラワー、セロリの芯、
ズッキーニ、じゃがいも、ニンジン、大根、
いずれも小片が、蒸し焼かれ、
四角い皿の上は、現代美術のコンポジションのよう。
粗い海塩が、節度をもって振りかけられ、
鶏のジュのソースがそっとかかっていて。
12種という限定感が、小峰シェフの凛とした美意識を伝えていて。
食べれば、それぞれの野菜は最大限に糖度を引き出され、
しかも絵画に喩えるならば中間色のトーンが拡大鏡にかけられたように、
多彩に感じられる。


しかも、今回の「白菜のロースト」がまたすばらしかった。
しいて似たものを挙げるならば、
想像しうる限り極上のロールキャベツだけれど、
でも、小峰シェフの「白菜のロースト」は、
ロールキャベツみたいにノスタルジックでなく、
そこには小峰シェフの創造性が切り拓く料理の未来があって。
しかも、小峰シェフならば、
野菜料理のフルコースを、
たとえ13夜連続フルコースでさえも作れてしまうでしょう。





そしてぼくらは、微笑み合って、お勘定を払い、シェフにお礼を言って、店を出た。
名残惜しいね、少し散歩でもしようか。
そしてぼくらは電車に二駅ほど乗って、用賀へ向かった。
沖縄の建築家集団がこしらえた散歩道はほのぼのしていて、
歩いていてたのしく、
のんびり歩いて、砧公園に着く頃には、夕闇だった。


並木道を歩きながらぼくは、卵型の顔の美女に語ります、
いや、きょういただいたフルコースは、木管五重奏というよりも、オペラだったね。
そう、白菜をヒロインにした華麗なオペラだった。
ぼくは息を飲んだよ、白菜をあんなにものびやかに、自由奔放に、輝かせることができるなんて。
そもそも、いったい小峰シェフ以外の誰が、
仔羊でも、仔牛でも、野ウサギでも、野鴨でもなく、
白菜をヒロインにしたオペラを作曲するだろうね。


すると彼女は言いました、
スージーさんには、逆立ちしたって無理ですよね、
だって、毛並みの美しい野鴨ばかりちやほやして、
白菜の存在なんて目に入らないですものね。


ぼくは笑って言った、あ、ずるい、世渡り上手、
美しく、俊敏な、野ウサギの癖にまるで自分が白菜みたいな言い方しちゃって。


夕闇のなか、野球の練習場だけが明るく、辺りを照らしています。
並木道を歩きながら、ぼくは彼女に言った、
小峰シェフはすばらしいねぇ、
ヒンデミットにも、ミヨーにも負けないくらい。


ぼくらは夕闇のなかを歩いていった、
心のなかは輝いていた、小峰シェフの白菜のロティに照らされながら。


ぼくと女友達とインド料理、ときどきフランス料理。
http://www.doom.now.cc/rvwr/000436613/

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6位

亀戸升本 すずしろ庵 (亀戸、亀戸水神、東あずま / 弁当)

1回

  • 昼の点数: 4.5

    • [ 料理・味 4.5
    • | サービス 4.0
    • | 雰囲気 4.0
    • | CP 5.0
    • | 酒・ドリンク - ]
  • 使った金額(1人)
    - -

2010/11訪問 2018/03/17

東京でいちばんおいしい、180円のごちそう♪ 

亀戸升本すずしろ庵の、
大根まんじゅう福わけは、
「おやき」の具を、にくまんやあんまんの、
白いふっくらした皮で包んで蒸しあげたもの。
ふかふかでおいしいの。


具は、小さく切ったダイコン、シイタケ、タケノコ、
松の実、クコの実を、
おだしとちょっぴりの薄口醤油で炊いて、
とろみをつけてあるのかしら(?)
それがまたふかふかの皮とあいまって、
具材のカットも、バランスも完璧で、
お味は上品で、はんなりして、おいしいの。
肉まんの美質をヴェジに活かしたっていうのかしら。
180円で、こんなにおいしい、
ほんとうのごちそうがいただけるなんて!
上野のうさぎやさんのどら焼きと並んで、一等賞!


テイクアウトもできますし、
また、店内(十席)でいただくことも。
大根まんじゅう福わけを注文すると、
一緒においしいお茶と、
亀辛しょうゆ(辛子と米麹の南蛮漬け)少量も添えて、
サーヴされます。これがあると、いっそうおいしい♪


なお、亀戸升本すずしろ庵は、
会席おべんとう屋さんとして有名です。
「すみだ川」1290円、
「香取弁当」1100円、
そのほか上品でおいしいお弁当が何種類もあります。
こちらも華やかで、上品で、会席弁当の鑑です。


ぼくと女友達とインド料理、ときどきフランス料理。
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7位

炭焼き かどた/お料理すゞ㐂 (恵比寿、代官山、中目黒 / 食堂、もつ鍋)

1回

  • 夜の点数: 3.8

    • [ 料理・味 3.8
    • | サービス 3.3
    • | 雰囲気 3.6
    • | CP 5.0
    • | 酒・ドリンク 3.3 ]
  • 使った金額(1人)
    ¥6,000~¥7,999 -

2010/10訪問 2022/01/08

王道と、遊び心。

わが友、自称早稲田大学准教授こと おおはらセンセイ は、
コスパ、コスパ、コスパ~とニワトリのような声をあげて、
こちら食彩かどたさんを絶讃なさっておられたもの。
もっとも、おおはらセンセイは大好きな焼肉と駅弁以外は
すべて見栄で召し上がってらして、
したがって、センセイの味覚はほぼあてになりません。
ただひたすら、センセイのこんなお気持ちがわかるばかりです。
「なるほど、わたしは肥えたホームレスのような風貌かもしれないけれど、
しかし、わたしは風雅を解する上等の人間なのだ。」
センセイはなんとしてでもまわりの人びとにそうおもわせたい。
もちろんそれは、傍から見ればいかにも無理筋の野望ながら、
しかし、センセイは本気です。
そんなわけで、ぼくはセンセイによる評価を大いに疑っていたものでした。
ところが結果から言えば、こちら 食彩かどた さんの夜のお料理はたいそうすばらしく、
ぼくは不明を恥じるとともに、おおはらセンセイへの敬愛の気持ちを深めました。
しかも かどた さんはいつのまにか内装もおしゃれになって、
器もけっして高いものではないけれど、選びのセンスが良くなって、
しかも、たまたまこの夜は、料理長が不在だったにもかかわらず、調理は完璧。
(この理由は、後ほど考察してゆきましょう)。


きのこと栗の蒸し物、
まつたけと金目鯛の土瓶蒸し、
お刺身盛り合わせ、
カマスの焼き物、
茹でたエビ、煮たシイタケ、酢漬けのキューリの黄身酢和え(ザクロ入り)、
里芋の油焼き、山芋ソース、
焼き茄子の鉢蒸し、
鴨団子のにゅうめん、


そのほか計十品はどれも、
いつものように趣向もあって、手間もかけてあって、はんなりしっかりおいしい!
それぞれ魅力たっぷり。
オーソドックな料亭和食の王道を守りながら、
適宜ほんの少し遊び心を導入する、
そのあんばいが心憎いばかり。
5250円税サ込み。


ぼくは、割烹和食のお店を幅広く知っているわけではけっしてないけれど、
たとえば、東北沢の一万円割烹、与志福のお料理と比べてみても、
なるほど与志福は価格相応に食材も良く、いかにも料理が上手で、じっさいたしかにおいしいいともおもうけれど、
でも、ぼくは、かどたさんの(半額の)料理の方が、
一品ごとに明快なイメージをそなえていて、レシピにウィットを感じさせる魅力があって、
おいしさのヴァライティもあって、飽きさせず、
したがって、料理の記憶に深く残って、よりいっそう好きだなぁ。
おそらくその理由は、与志福さんは、板前さんがおひとりで料理してらっしゃるゆえ、
板前さんの力量がそのまま料理のおいしさになる、高額店ならではの魅力があるものの、
逆に言えば、ともすれば料理は即興に傾き、しかもウデ良く、食材も良いから、
即興的でありながら、おいしい料理が成り立ってしまい、
一品ごとの構成力が弱くなりがち。
対照的に、かどたさんは、二十席足らずの席数とはいえ、
夜はたいていニ回転半はしてそうなイキオイゆえ、
オペレーション上、厨房のチームワークが要求され、
したがって、一品ごとのレシピの完成度が高くなければ、料理が崩れてしまう。
だから、かどたさんは、一品ごとのレシピをしっかりこしらえ、
料理長がいらっしゃるときも、いらっしゃらないときも、
変わらないおいしさを提供でき、だからこそ、記憶に残る料理が多いんじゃないかしら。


もっとも、そんな食彩かどたにも弱点はあって、
格安価格で提供するために、テーブル間隔は狭く、
わいわい話し声も聞こえるけれど、
でも、逆に言えば、それも料理がおいしい証拠。
しかも、かどたさんは初回にいただいたときから、
調理の手間をおしまず、料理のセンス良く、おいしく好印象だったけれど、
今回、さらにいっそう良い店になったことを実感しました。


ぼくと女友達とインド料理、ときどきフランス料理。
http://www.doom.now.cc/rvwr/000436613/

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8位

魚河岸寿司 (西葛西 / 寿司、海鮮)

1回

  • 夜の点数: 4.2

    • [ 料理・味 4.2
    • | サービス 3.0
    • | 雰囲気 3.0
    • | CP 4.5
    • | 酒・ドリンク 3.0 ]
  • 昼の点数: 4.2

    • [ 料理・味 4.2
    • | サービス 3.0
    • | 雰囲気 3.0
    • | CP 5.0
    • | 酒・ドリンク 3.0 ]
  • 使った金額(1人)
    ¥5,000~¥5,999 ¥1,000~¥1,999

2010/11訪問 2014/08/27

まさかな場所の鮨の名店、なんと東西線西葛西南口・団地群のなかのスーパーの二階!

いやぁ、驚くよ、ふつう名店はそれらしいロケーションのなかで、
もっともらしい顔つきの店構えをしているもんですよ。そうでしょ?
たとえば、鮨屋だったら、銀座の太一、六本木の鮨さいとう、それから西麻布・高樹町の真(しん)さん、
どこもいかにも、名店でございます、って顔つきをしているし、じっさいおいしい。
もっとも、値段がねぇ、ま、この話は後でしましょう。
ところが、この魚河岸寿司は、東西線西葛西南口の、
団地のなかのスーパーマーケット併設のショッピングモール「パトリア」の二階にある、超絶名店なんだ。
そんなしょぼい場所に名店なんてあるわけない、
グルメにとって西葛西の有名店は、「芝浦食肉」と「スパイス・マジック・カルカッタ南口店」だけでしょ、
鮨屋の話題なんて聞いたことないよ、ふつうはそうおもうでしょ、
おもうのがあたりまえ、でも、魚河岸寿司はまごうことなく名店なんだ。


ネタは新鮮、しかも良いものを選んでいて、どのネタもグラマラスで、
切り方も大きさも、握り方も人柄が表れていて、いいなぁ。
食べていて、舌が微笑んじゃう。しかも値つけが良心的で、
いや、ランチにいたっては、ありえないほど安い。
じゃ、安いランチにはそこそこのネタを使ってるかって言えば、
そんなことまったくなく。
いくら土地代の安い西葛西とはいえ、
この安さであれだけおいしいということは、
店主が魚のおいしさを隅から隅まで熟知していて、
しかも魚市場との信頼関係がしっかり結ばれているんだろうなぁ、
むろん長年店をいとなんでらっしゃるからこそ。
そういうのは、なんとなく、わかるもんですよ、客にだって。
だって、はじめてこの店でお鮨を食べたとき、ほんとに驚いたもの、
いやぁ、こういうことってあるんだなぁ、って。


店内のつくりはいたって普通でとくに特徴はないけれど、
ただし清潔で、お客さんもよく入っていて、街の人気の鮨屋のふんいきをかもしだしてる。
カウンター七席に、座敷が二卓で、計十七席くらい。
カウンターの向こう、店主の後ろには、水槽があって、
ゴージャスな伊勢エビが、甲殻類の体で、もぞもぞ触角動かして、動いてんだよ。
そのほか水槽のなかには、アワビ、サザエ、ハマグリ、アサリ、ミル貝がいる。
ほらね、もう良い鮨屋のふんいきでしょ。
しかもカウンター席の上に、漁船の写真が飾ってあってね、
(この話は後でしましょう)。


ランチは、水曜以外の十二時から二時までで、
松にぎり十貫1050円。うれしいねぇ、この値段で、鮨のおいしさを味あわせてくれて。うまいんだよ。
それから「荒海」って海鮮丼1260円がまたゴージャスきわまりないんだ、
下にガリとレタスが敷いてあって、
上に、その日のぴちぴちの魚、たとえば鯛とかカンパチとかアジ、サバ、
それから貝類、貝のヒモノ、ホタテ、アオヤギ、
干瓢、おしんこ、卵、
いや、もう、贅沢におおばんぶるまいなんだ。
うまいのなんの。こんなの、1260円で売っちゃっていいの!??


夜のコースも、超良心的。
梅コースが、4000円で、ビールかお酒、つきだし、刺身、にぎりが五つ。
竹コースが、5000円で、ビールかお酒、つきだし、刺身、にぎりが六つ。
松コースが、6000円で、ビールかお酒×二、つきだし二品、刺身、にぎりが八つ。
夜は、税別。


ただしね、この「つきだし」ってのが、もう凄いんだよ、
生牡蠣にしたって超でかくって、グラマラス、ジュースがたっぷりで、うまいんだ。
にぎりにしたって、銀座や六本木みたいなちんまりしたにぎりじゃなくて、
アジでもヒラメでもイキのいいやつだし、マグロだって上等、貝類もいい、海胆も上等、なんだってうまいんだ。
どんと大きく(ただし、大きすぎるほどではない、実に良い感じに)すっと切って、
いい感じに握ってくれるんだ。
よくある都心の名店で、上品ぶって小さく切ってちんまり握るお店もあるけど、
あまりちいさいと味なんてわからないよ、
店主はそのあんばいをよーくわかってんだ。


それからね、コースではなく、一品ごとに食べると、
値段はもうちょっといっちゃうけれど、そのぶんいろいろサーヴィスしてくれるんだ。
たとえば、ホタテを握ってもらうでしょ、これがまたグラマラスなホタテでさ、
続いてね、ちょっと酒と醤油を加えて、ホタテの貝殻を小皿にホタテのスープを出してくれたりするんだよ。
それがまた粋でねぇ、しかも調理センス抜群だ、
アナゴなんかだって、ふっかふかにパンケーキみたいに焼き上げるんだ、ウデがイイんだよ。
それからね、一般に、鮨屋で海胆褒めちゃいけないって言うけどさ、
(あれは業者の処理が味を左右するものだから、職人技が要らないからね)、
でもね、魚河岸寿司の店主は、二種の海胆を買っていて、食べ比べを勧めてくれたことがあってね、
あれはおもしろい体験だったな、たしかに処理の違いで味が違う。
店主は舌がいいんだ、ちゃんと見るとこ見ていてね、その目も舌もひじょうに厳しいんだ。


店主の後ろの、水槽の中には、アワビ、サザエ、堂々たるミル貝がうごめいている。
水槽の海水は、千葉の鴨川の漁港からもらってくるそうな、
20リットルのポリタンクで、8つほど。
おいしい鮨には、理由があるんだなぁ。


しかも、店主は魚が大好きで、魚の尾ヒレで、ヒモノ作ってんだよ。
六本木や、銀座の名店じゃ、まずヒモノは出さないでしょ。
でもね、店主は、うまい魚はヒモノにしたってうまい、って考えを持っていて、
いかにも魚が好きそうな客にはね、「こういうの出しちゃうと怒られちゃうかもしれませんけどね、
でも、ちょっとどうですか?」なんて感じで、コースの「つなぎ」の遊びで、
ヒモノを出してくれてね。たしかに、うまいんだよ。うまみが凝縮してる。
おれ、びっくりしちゃったよ、店主、あんた、魯山人かい、って!??


いや、ヒモノなんか褒めちゃ、こっちが怒られちゃうかもしれないけど、
いかにも魚が好きな店主の心意気ってやつですよ。
実は、店主は十五歳から二十歳まで、漁船に乗ってたんだよ。
鯖の一本釣りで、船員二十人で、みんなして、
冷凍のサンマを餌にして、一匹1キロくらいの鯖を、
十秒に一匹ってノリで、次から次へと釣り上げたそうな。
次が、鰹の一本釣り、これまた二十二人で船に乗って、
三浦岬から小笠原の方まで出たそうな。
いまの釣り竿はグラスファイバーらしいけれど、当時は竹竿で。
八月二十日過ぎたら、秋刀魚漁船に乗り込んで、
千葉からえんえん北へ向かって、岩手の方まで。
秋刀魚漁船は十二月あたりまでね。
店主は、懐かしそうにしゃべる、「あの頃はね、森進一の『港町ブルース』が流行ってたもんですよ。
あと、青江美奈も、流行ってましたよ。あの人、マリリン・モンローさんみたいに派手そうに見せてた人だったけど、
ほんとはまじめな人だったらしいですね。」
・・・と、まぁ、うまい鮨を食べながら、店主の話を聞くのも、たのしくてね。


西葛西魚河岸寿司は、1983年(昭和58年)から、
西葛西の団地のスーパーマーケット併設の二階のショッピングモールのなかで、
まるで凡店のような顔つきで、しらっとして、
安くておいしい鮨を出してるんだよ、二十七年間ずっと。
まさか、そんなむかしからやってる店だなんて知らなかったよ、
西葛西の住人も、幸福者だよ。


ま、ざっと西葛西魚河岸寿司の紹介はそのくらいなんだけどさ。
せっかくだからちょっと鮨話もしよっか、
だって、このレヴューの書き手が、これまでどんな鮨ライフを送ってきて、
どんな鮨屋の好みをもっているかを書かないと、
読者だって、レヴューの読みようがないものね。
実は正直言うとぼくは、
銀座や六本木で鮨喰うなんて、酔狂だっておもってるんだ。(ま、酔狂のたのしみもあるとはいえ)。
だって、酢飯の上に、魚の切り身と一緒に、土地代乗せて握ってもらたって、しょうがないじゃないの。
いや、冒頭でも触れたとおり、ぼくだって、
銀座の太一や、六本木の、鮨さいとう、それから西麻布・高樹町の真(しん)さんでは食べていて、
いずれも、あぁ、おいしいっておもったけどね。
とくに真さんは、ネタも、大きさも、握り方も大好き、
真さんの鮨って、色っぽいんだもん、鮨職人の凛とした風情がありながらね。
とはいえ、真さんちは、十貫、一万円でしょ。
ビールでも飲めば軽く一万円は越えちゃう。
たしかに鮨屋って、ガラスケースのなかに、ネタを1ダース半は用意しておくもの、
いくらなんでも、コハダ、鯖、中トロに、アナゴ、あとは卵焼きとカッパ巻きしか用意がなくて、
それでもって鮨屋でございます、ってわけにはいかない。
したがって、どうしても食材のロスが避けられない商売で、
それゆえ(その損失ぶんも値つけに乗っちゃうので、どうしても)値つけが上がりがち、ま、ある程度は仕方ない。
おまけに、銀座・六本木は土地代がバカ高い、
名店を続けてゆくのも大変だろうなぁ、って名店にはつくづく感心するけどね。
もっとも、真さんちなら、たまには食べに行くのもたのしいだろうな、っておもうけれど。
とはいえ、ま、ぼくが愛せるのは真さんまでで、
あとはもう、九兵衞だか十兵衞だかそういうお店もぼくが暖簾をくぐることはなさそう、
向こうだって、ぼくを呼んではいないだろうし。
はたまた、いくらジョエル・ロブションが食べようが誰が食べようが、
数寄屋橋のサブローだかシローだかコメディアンじみた名前の超高額鮨屋は、ちょっとねぇ。
もっとも、その鮨職人は、「それまで劣悪だった鮨職人の労働環境の向上に資して、
かれのおかげで鮨職人の多くが店を持てるようになって、
多くの鮨職人たちに希望と励みをもたらした」という賞賛の声もまた聞きしはしていて、
ビューティフルなお話ね、とおもいもするけれど、
それは、まぁ、業界裏話のようなもの、
お客にとっては、それはそれ、これはこれ。


他方、低額鮨屋では、築地場内の寿司大がおいしいね、
朝の騒然とした市場で、パレットに追いたてられて、早朝から店の前に行列して、
外人さんに鮨の説明をしてあげたりしながら、順番を待つ。
江戸前鮨の、いわゆる「ひと手間」かけたお鮨、
金目鯛なんて実に良い仕事をしているとおもったよ、
そのほか、大トロ、ホッキ、ヅケマグロ、海胆、穴子など、
十貫+粗汁+アンコール一貫で、\3,900でしょ。
うれしいねぇ、そうこなくっちゃ。
もっとも、気のせいか寿司大は三年くらいまえの方がいっそうおいしかった気がするけれど、
ま、あれだけの人気店になると、二百回転くらいしそうなイキオイ、
とうぜん気の遠くなるような仕込みの量になるわけで、
毎日が戦場だろうから、ま、相当がんばっているとおもうけれど。
ま、寿司大さんは、ちょっと特殊なオペレーションの、名店なんじゃないかしら。
あの店を基準に鮨を語っては、話がおかしくなる。


そうこうして見ると、西葛西の魚河岸寿司は、
ぼくのような考えを持つ者にとってほんとうに願ったり叶ったりな、最高の鮨屋でね。
ネタは新鮮、しかも良いものを選んでいて、どのネタもグラマラスで、切り方も大きさもすばらしい。
食べていて、舌が微笑むよ。しかも値つけが適切で、ランチにいたっては、ありえないほど安い。
鮨好きなら、騙されたとおもって行ってごらんよ、
丸の内や、銀座日本橋上野神田あたりで働いてる人なら、
ちょっとシャレで、西葛西まで食べに来るのも、乙なもんだよ。


でもね、きっとね、西葛西駅降りて、改札出て、南口へ降りて、
歩いてるうちに、だんだん不安になることまちがいなし。
ついウカウカっと、安くてうまい穴場鮨なんて、オイシイ話に興味をもって、
食べログレヴューにノセられて、シャレっけ出して、じゃ、一度試しに・・・
なんちゃって、東西線は急行に乗らないように気をつけて、
ちゃんと普通電車に乗り込んで、
おもわず西葛西くんだりまで来てみたものの、
なんだよ、ここは、ターバン巻いたインド人がうろうろする高層団地の街じゃないか!??
しかも、慣れれば駅から徒歩十二分くらいの場所なんだけど、
でも、はじめての道は、やけに遠く感じるもの。
てくてく歩いてるうちに、きっとおもうんじゃないかしら、
こんな場所にうまい鮨屋なんてあるわけない、
食べログレヴューにまんまと騙されたよ、
もう鮨やめて、ラーメンでも喰って帰ろかな。
それでもいつしか足は進み、気がついたら、引き返すに引き返せなくなって、
道順のとおりに歩いて来たら、
スーパーマーケット併設のショッピングタウン(パトリア)に着いて、
(ここかよ!??)なんて情けない気持ちになって、
すっかりしょげ返ったままエスカレーターにまで乗ってるうちに、
なんだかなぁ・・・なんてお人よしなんだろ、自分!
って、物悲しい気持ちになることまちがいなし。


しかし! 絶望するのはまだ早い。
魚河岸寿司の、のれんくぐって、注文して、
ビール飲んでるうちは、不安かもしんないけどさ、
でも、見てくださいな、カウンターの向こう、店主の後ろには、水槽があって、
ゴージャスな伊勢エビが、甲殻類の体で、もぞもぞ触角動かして、動いてるでしょ。
そのほか、アワビ、サザエ、ハマグリ、アサリ、ミル貝がいる。
少し落ち着いてきたでしょ。
そしてつきだしが出てきた瞬間から、おぉ・・・・
って、おもうんじゃないかしら。
そしてそれを食べはじめたなら、にんまり笑顔まちがいなし。
いやぁ、東京にも、安くてうまい鮨屋って、存在するんですよ。
まいった、食べログレヴューは嘘じゃなかった!!!
ってきっとおもってもらえるんじゃないかしら。
西葛西魚河岸寿司で鮨喰ったら、もう、
築地なんてもんは、職人の仕事場で、一般客にとっちゃ、鮨好きのディズニーランドみたいな場所にすぎないし、
銀座、六本木みたいな土地代の高い場所で鮨喰うなんて、バカバカしいっておもうんじゃないかしら。
ま、人それぞれ一軒くらいは銀座六本木の例外的ごひいき店が残るかもしれないにせよ。
あ、そうそう、カードは不可。
だって、カードOKにしちゃうと、カード屋に払う手数料が七パーセントくらいいっちゃうからね、
西葛西魚河岸鮨みたいな、値つけの良心的なお店は、やむなくカード不可なんだよ。


ぼくと女友達とインド料理、ときどきフランス料理。
http://www.doom.now.cc/rvwr/000436613/


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9位

スパイスマジック カルカッタ 南口店 (西葛西、葛西 / インド料理、インドカレー)

1回

  • 夜の点数: -

    • [ 料理・味 -
    • | サービス -
    • | 雰囲気 -
    • | CP -
    • | 酒・ドリンク - ]
  • 昼の点数: -

    • [ 料理・味 -
    • | サービス -
    • | 雰囲気 -
    • | CP -
    • | 酒・ドリンク - ]
  • 使った金額(1人)
    ¥3,000~¥3,999 ¥1,000~¥1,999

2015/01訪問 2023/01/12

初笑い・ミールス指南。

誰かにサーヴィスしたい、誰かのうれしそうな顔を見るのが好き、
そんな気質の人っていますね、サーヴィス業の人はみんな多かれ少なかれそうですよ。
たとえば、ローマやフィレンツェのリストランテの
サーヴィスマン、サーヴィスウーマンっていいですね、
あの人たちは、いかにもショウビズ感覚でお仕事してらして、
お客さんに対して、レット・ミー・エンタテイン・ユー、っていうポリシーを持っている。
ま、チップがあるせいもあるんでしょうが。
他方、ぼくは日本人ですからもっとおくゆかしいタイプですし、
プロのサーヴィスマンでもなんでもないただの食いしん坊なんですが、
ただし、とくに贔屓のインド料理屋にいて、
どこかのテーブルでなにかに迷ったりまごついたりしてるお客さんがいらっしゃたりすると、
たとえ知らない人であっても、いてもたってもいられなくなって、
ぼくがそばに行って、食べ方はもちろんのこと、
文化的背景からなにからなにまでしゅっしゅーっと説明してあげて、
手取り足取りサーヴィスしたくなる、そういう変な性分があるんです、ぼくには。
しかもぼく、せっかちというか、関西風に言うと「いらち」で、
それでも、じぶんとしては
じぶんのサーヴィスしたい願望をわりあい我慢してるつもりなんですけどね。


いや、順を追ってしゃべりましょ、日記じゃなくてレヴューですからね。
このお話は、スパイスマジックカルカッタ南口店の、サウス・インディアン・ターリ 1550円は、
バランス良くおいしく、とくにミールス入門にぴったりですよ、
今年のぼくは、これをもってインド料理事始になりました。
と、ざっと、まあ、そんな展開なんですが、
ま、ぼくの文章読むのが好きな奇特な人にとっては、ここから先が本文ですよ。


いやね、年明け最初にどこでインド料理を食べるか、これ、大事なことですよ。
さいきんはツイッターなんて便利なもんがあって、
なんどりもケララの風も正月休みが長いらしいぞ、とか、
巣鴨プルジャ・ダイニングは2日夜かららしいぞ、とか、
小岩サンサールは4日からだぞ、なーんて貴重な情報が飛び交っていて。
さて、西葛西はといいますと、
当初はレカが年末・年始も休まず営業のはずだったものの、
年末にヨギさん、レカさん風邪引きで、予定変更、初営業日も未定になって、
ぼくはずいぶんと残念がったものですし、かつまた、
いつもおいしい料理を作ってくれるレカさんが風邪で苦しんでるなんて、ぼくが替わってあげたいくらい。
しかもかててくわえてアムダスラビーはきょう3日(土)のランチタイムビュッフェからの予定で、
おぅ、それじゃあぼくは趣味の接客でたのしませてもらいましょ、と、
ワイシャツに派手なネクタイ締めて、中折れ帽子かぶって、ジャケット着て、
意気揚々とアムダスラビーに向かったものの、
しかし、クックのふたりが風邪引いて、4日(日)のランチタイムビュッフェからに延びてしまった。
オウナーのピライ・マリアッパンくんの悔しそうなこと、
そりゃそうですよ、売り上げ数万円の損失もさることながら、
むしろしゅっしゅーっと調子よく颯爽と、
おいしくたのしい食べ放題ビュッフェでたくさんの贔屓客の笑顔とともに、
年明け営業スタートさせたかったのに、
しかし、なんともぶさいくなゲンの悪い年明けになったこと、かっこ悪いったらない。


ぼくは、お詫びのビラを書いて、看板にはりつけてあげた。
そこへさして、若夫婦が、まだあどけないちっちゃな男の子連れでアムダスラビーに現れた。
訊けば船橋から食べ放題ビュッフェを食べる気まんまんでいらした。
若夫婦は、がっかりしちゃって、肩を落としてる。
そりゃそうですよ、ぼくだってインド料理好きとして、若夫婦の幻滅がいたいほどわかる。
若奥さんがおっしゃる、西葛西でどこかお勧めはありませんか?
ぼくは答える、「あります、あります、スパイスマジックカルカッタ南口店があって、
線路の向こうを左手へまっすぐ・・・」
なーんて言ってるうちに、ぼくはおもわず言った、
「あ、じゃあね、ぼくがご案内しますよ、
ちょうどぼくもね、スパイスマジックカルカッタ南口店のミールスが食べたいなあ、
っておもってた頃なんですよ、こういうのを神様のおはからいって言うんですね、
いやぁ、人生はこういうことがあるからおもしろい、じゃ、ご案内しますよ。」


若夫婦もおもったことでしょう、けったいなおっさんがいたものだ、
それでも半信半疑、ぼくに着いて来てくれます。
ぼくは言う、西葛西駅のね、反対側、南口なんですよ、
鳥たちが群れさえずってますよ、で、その正面がカラオケ館、人間もみんな歌っています。
で、ここを左折して、あとはずーーーーっとまっすぐ。
とかなんとか言いながら、Mister Donut、Royal Host、TUTAYA、
TIMES 21、レンタカー屋、そして信号渡って Mos Burger、
くすりの福太郎、クリニックサカキ、
さて、SPICE MAGIC CULCUTTA とお店の名前の入った布を掲げたバルコニーが目印です、
外階段のエントランスを二階まで上がります。


新春そうそう、やってます、ありがたいじゃありませんか、ねぇ。
ドアの木枠は緑色、なかに入ると白い壁に料理写真が貼られ、
テーブルは木の茶色、椅子のシートは緑色、25席のちいさな街場のインド食堂です。
キッチンはガラス張りで、インド人の料理人がふたり、陽気に働いています。
ぼくは訊ねます、サイトウさんは?
インド人は答えます、サイトウさんはお休みです。
ぼくは言いました、ざんねんだなぁ、いえね、サイトウさんという人がねっからの好人物、
人あたりのいい紳士で、給仕長の鑑、
そのうえ、このサイトウさんはプログレッシヴロックから、ジャズから、現代音楽まで趣味のある人で、
あの、なんどり の稲垣さんと、フランク・ザッパの話をしてもりあがる人ですよ。


ぼくはかなりがっかりしたものの、しかし気をとりなおして、船橋からいらした若夫婦に言います、
「ぼくのおすめは、なんと言っても、
サウス・インディアン・ターリ(南インド盛り合わせ定食)\1550です。
おいしいんですよ、いわゆるミールス、南インドの人たちが毎日食べてるお昼ごはん。
ステンレスのお盆に、ごはん、小鉢(カトリ)が並んで、かわいい花壇みたいなんですよ。
これね、ぜひ、食べてください。」
それにしてもぼくはいったい何者なんでしょうね、
だって、さっきアムダスラビーの店先で会ったばかりだというのに、
この家族は、ぼくの南インド料理講釈を聞かされて。
おふたりもたぶんおもったでしょう、おもわないわけがありません、
(なんかよくわからない展開になってるなあ、かんぜんに巻き込まれてるわ、
この人も悪い人には見えないけれど、いったいなんなんだろう、
しかしいまさらどうにもできないし・・・)おそらくそんな意識の流れがあったでしょう、
それでも言ってくれます、「それじゃあ、それをお願いします。」


さて、10分くらいかかったかしら、(ちゃんと作ってくれてる証拠です)、
ミールスが3つ、届きます。


ぼくは説明します、「こちらの野菜カレーには、ダイコンとニンジンが入っていて、
これがサンバルという名前で、
ま、けんちん汁みたいなもんです。


こっちのコンソメスープのようなものは、ラッサムって言って、
ふわっとシャンサイの香りがあって、
トマトの量も少なめ、綺麗に澄んでいて、
その澄んだスープに穏やかな酸味と、
トンガラシのキックが控えめに効いていて、
ニンニクの小片がイモのようにとろんと煮込まれ、
しかも控えめに黒胡椒が効いています。


こちらは、インゲンの炒め物、
白いココナツフレークがたくさん混じってますね。


まずね、丸盆から、小鉢(カトリ)をぜんぶ外に出しましょ。
そうです、そうです。で、ごはんを残して、
そこにラッサムをかけます、そうですそうです、
お茶漬けみたいな要領でね。
で、サンバルもかける、いいんです、いいんです、混ざっても。


で、このおせんべいみたいなの(パパド)を、
砕いて、ごはんにふりかけます。


あとはもう、この赤いピクルスやら、白いココナツのピュレやら、
もちろんインゲンの炒め物などを、
混ぜたり、軽く捏ねたりしながら、
一匙ごとに、味わいを変化させながら、食べるんです。


あ、そうそう、渦巻きみたいなパンはパロタという名前で、
風船みたいなのが揚げパンのプーリって言います。
インドは小麦粉がおいしくて、イタリアに負けません。
ね、おいしいでしょ。」


奥さんがまたいい人で、「ほんとおいしい、
へぇ、これがラッサム、おいしい、
インゲンの炒め物も、うずまきパンも。」
なんて言ってくれちゃって。


そんなこんなで、さっき出会った同士が、
ミールス食べて、ふしぎな年明けになりました。
3人でお勘定して、にこにこ挨拶して、別れて、
あとでおもいうかんだのが、落語の あくび指南、
江戸末期、浄瑠璃やお茶のおけいこごとが流行ったのを揶揄して、
あくびのお師匠さんが登場する噺。
もちろん人は眠たくなったら自然と あくび をするもので、
お師匠さんもいらなければ、習う人もいない、
いないからこそ落語になるわけですが、
なんだなんだなんなんだ、おれ、あくびのお師匠さんならぬ、
自称ミールスの食べ方指南してるやないか。
(こんなんでいいんかなあ、おれ?)
みんな影で心配してますよ、いいわけないやろ、すこしはじぶんの人生考えなはれ、って。


ぼくと女友達とインド料理、ときどきフランス料理。
http://www.doom.now.cc/rvwr/000436613/

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