レビュアーの皆様一人ひとりが対象期間に訪れ心に残ったレストランを、
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2位
2回
2018/12訪問 2018/12/19
12月14日 金曜日。日が暮れて名古屋駅中央コンコースに人通りが多くなってきた。約束の時間にはまだ早い。あの方にお会いするのは今日が初めてだ。この人混みの中で探し出せるだろうか。容姿は互いに知らない。目印は180cmの長身と、オレンジがかったベージュのコート。あれこれ考えながら足を進めると、待ち合わせの人の群れから少し離れて立つ白髪の紳士が目に入った。
「romgrayさんですか?フレディです!」
この1か月余りの間、この日をずっと待ち焦がれていた。東京在住のレビュア romgray0718さんから「名古屋へ立ち寄る折に、一献いかがでしょうか」と、ご連絡をいただいたのだ。店の段取りは任せていただき、蕎麦・鈴音を予約しておいた。少人数での居心地のよさと安心感では申し分ない。
予約時間の18時より10分早く店に到着すると、先客は二人連れがひと組。この日は忘年会のピークだと思うが、こちらの店はそんな喧騒とは縁がない。それでも席は予約で埋まっているそうだ。夜は原則として客を回転させないので、気兼ねなく長居をすることができる。
料理はおまかせのコースでお願いした。まずは蕎麦前におあつらえ向きの酒肴が十品。板わさ、出汁巻き、ローストビーフ・・・。少しずつ品数多く、酒飲みの気持ちを心得ている。ビールのグラスが空いたので、燗酒をいただくことにした。店主のお勧めは「明鏡止水 垂氷 純米山田錦」。長野県佐久の酒だ。料理は刺身盛り合わせが続く。
興に乗ると、やはり冷や酒が欲しくなった。そこで、選んだのは「黄金澤 山廃 純米酒」。錫の片口になみなみと注がれて提供される。こちらは宮城県の酒で、川敬商店という五百石ほどの小さな蔵元が醸している。こういう珍しい酒を置いているのも鈴音らしい。三品目の料理のカワハギ煮つけが出てくる頃には、早くも入店から二時間が過ぎていた。
続く料理は天ぷら。3回に分けて提供される。そして、最後は定番の蕎麦二種盛り(埼玉入間と北海道産)。十割と二八のはずだが、どっちがどっちだったか・・。細切りの蕎麦はどちらも旨い。かつて気になった返しの弱さは改善されたように感じる。締めくくりの蕎麦湯をいただいて、店を出たのは開始から三時間を大きく廻った頃だった。
この日、男二人の忘年会のつもりが、忘れられない一日となった。
romgray0718 様
今回はご遠方のところお運びいただき、ありがとうございました。
たくさんの興味深いお話に、私は料理そっちのけで惹き込まれてしまいました。
初めてお目に掛かったromさん、穏やかな語り口で心配りの細やかな紳士ですね。
さらに気負いのない自然な振る舞い。とても懐の深い方と尊敬いたします。
初めてなのにそんな気がしないと、貴レビューに記していただきました。
私も同様に、古い友人と再会したときのような懐かしさを感じました。
楽しい席をご一緒し、語り合う時を共有できましたこと、心よりお礼を申し上げます。
次の機会を今から楽しみにしています。
11月3日文化の日。澄み渡る秋空の下、名古屋駅前から桜通をゆっくり歩いて東に向かった。今日は敬愛する二人の同好の士と、想いを語り合いながらの道行きならば、自ずと気分は昂ぶるものがある。泥江町の交差点を越え、堀川の手前で四間道を北に折れた。古い町屋や土蔵の風景に触れ、円頓寺のアーケードを巡って路地に入る。するとそこへ、もう一人の大御所が現れた。役者が揃ったところで本日最初の店「鈴音」へ向かう。
これまで昼の膳しかいただいたことのない店だが、日本酒の種類豊富なことは承知している。昼飲みの舞台としては格好の選択だ。奥の小あがりに陣取って、まずは生ビールで喉を潤すも、これは始まりの狼煙のようなもの。グラスが空けば、すぐさま日本酒に切り替えて、いよいよ本格的な酒宴の幕が開く。
最初に手にしたのは津島の酒・長珍。カウンター背後の冷蔵庫から取り出して店主に差し出すと、いろんな種類を一合ずつ飲み比べてみてはという。そこで、手始めは仕込み違いの長珍30号と31号。ともに純米無濾過生詰とあるが、これが思った以上に違った風味で、概ね30号の方が好印象だった。
こんな具合に、旭興(栃木・渡辺酒造)、豊盃(青森・三浦酒造)と、同じ銘柄の異なる酒を楽しんだ。豊盃「ん」おりがらみ生酒は柑橘系を思わせる爽やかな味わいで、日本酒の新しい境地を窺わせる。最後の仕上げには、寶劔湧水仕込(広島・宝剣酒造)。数々の銘酒を堪能して、すっかり出来上がってしまった。
さて、ここまで酒のことばかり触れてきたが、酒肴も合鴨やかますの一夜干しなど味わい深いものばかり。いったい、どれだけ出てくるのかと訝るほどに次々と皿が続き、しかも、ひとつひとつが充実している。正直なところ蕎麦屋の酒にしては、たらふく食べ過ぎた感もあった。あまり粋とは言えないが、今日は気の置けない仲間との昼飲みだ。居酒屋感覚で大いに楽しませてもらった。
唯一、惜しむらくは、肝心の蕎麦と露が万全とは言えない状態だったこと。特に露はかえしが弱いという声多く、私もそのように感じた。これまでそんな印象を持ったことはないので、たまたまであってほしい。思えばいつもはせいぜい2・3組の客しかいないというのに、この日は席がほとんど埋まるほどの盛況で、それを店主ひとりでこなしていた。そこに無理が生じたかもしれない。この店本来の蕎麦がどういうものか、近く再訪して確かめるつもりだ。もちろん、その時は、店主に謝意を伝えることを忘れてはならない。
2016年8月 割烹風蕎麦の店。次は夜に訪ねたい
西区那古野の国際センターから北に向かい、円頓寺商店街に通じる古い街路には、この街の歴史を感じる庶民的な家並みが今もあちこちに残っている。最近この界隈を頻繁に訪ねていたが、そこに蕎麦屋があるとはついぞ気が付かなかった。店の存在を示すものは、表札のような小さい看板がひとつ。しかも、何故か暖簾は店の内側に掛けられている。この雰囲気に少々戸惑いながらも意を決して中に入ると、取っ付きに小さな三和土(たたき)があり、カウンターの向こうから若い店主が出迎えてくれた。ここで靴を脱いで店内にあがる。
店内はカウンターが横切り、左手奥にはテーブル席がふたつ。遅めの昼時、テーブル席には先客があったが、カウンターはすべて空いていた。昼の提供はざる蕎麦と炊込ご飯のランチのみ。カウンターには箸がセットされている。始めに蕎麦茶が出され、続く先付は青物のお浸しと赤玉葱に揚げ蕎麦をあしらったもの。これは気分を盛り上げてくれる。やや待って炊込ご飯が出された。ご飯は淡白ながら、それだけで充分味わえる。本当は蕎麦の前にご飯は食べたくないところだが、これなら許されそうだ。
二種類の蕎麦が、陶板の趣ある器に盛られて供された。秋田横手の二八と埼玉入間の十割。十割の蕎麦は少し青みを帯びている。ともに細打ちで繊細な蕎麦だ。まず、二八をいただく。八月ともなれば蕎麦には厳しい頃だが、この蕎麦は良い香りがする。コシがあり、のど越しも良い。十割の方は、香りはむしろ弱いような気がしたが、独特の甘みがある。一度に二種類の風味が味わえるのはありがたい。鰹の利いた露は均整が取れてほどよい味わいだ。
最後にどろりとした蕎麦湯を用意してくれた。この頃には客は私だけになっていた。ここで店を開いてどれくらいになるのかと尋ねると、三年半になるという。遅めの時間とは言え、もう少し客があっても良さそうだが、それを店主は望んでいないのだろうか。表の店構えをふと思い出した。元々は夜の営業だけでやっていたらしい。そちらがメインということだろう。確かに日本酒の銘柄はいろいろ揃っているし、割烹のようなスタイルも本領を発揮するのはその時間帯だ。あらためて夜に出直してみたい気持ちになってきた。
夜はお手軽なコースがあるようだ。まもなく夏新が出回る季節になる。誰かに声を掛けてみようか。
6月最後の日曜日、所用で刈谷方面に出掛けた折に、高浜の歳一六のことを思い出して急きょ伺うことにした。この店は地元の知人が懇意にしている先で、話には聞いていたが機会が得られずそのままになっていた。この辺りは不案内な土地なのでナビをセットして向かう。
表通りから細い道に折れると目的地到着の案内が流れる。少し迷って、ようやく店を発見した。表には小さな表示しか出ておらず、平屋の店構えは一軒の住宅のように見える。さほど年数は経ってないらしく瀟洒な造りだ。それにしても客の気配がない。日曜日の午前11時を過ぎたところ。確かに時間は早いけれど、暖簾も出ていない。不安になって店の案内を確認すると、開店時間は11時30分となっていた。しかも日曜日は予約のみとの記載。万事休す!そこへ、ご店主と女将とおぼしきお二人が現れた。おそるおそる声を掛ける。
「すみません、初めて伺ったのですが、日曜日は予約じゃないと駄目ですか」
すると、「どうぞ、結構ですよ」と、快く応じていただいた。ありがたい。
「時間も少し早いようですが・・・」
「いえ、用意はできていますので、どうぞ」
ご店主はそう言いながら暖簾を掛けて、柔和な表情で店内に招き入れていただいた。恐縮しつつも嬉しくて思わず笑みがこぼれた。
店内には6人掛けと4人掛けのテーブル席、奥には個室があるようだ。4人掛けの席に腰掛けた。天井を見上げると太い梁があらわし仕上げになっていて木のぬくもりを感じる。とても落ち着きのある空間だ。日曜日のメニューはお昼膳(1,600円 税込)だけになるという。内容は伺っていないが、何がいただけるか楽しみだ。
始めに出てきたのはサラダと蕎麦豆腐。サラダには大振りな鴨の燻製が添えられていて、いきなり期待が高まる。蕎麦豆腐はもっちりとした食感。蕎麦がきのような味わいがある。続いて生麩が供された。軽く素揚げにしてあるようだ。これは八丁味噌でいただく。このあたりで、既に私はこの店の料理に魅せられていた。どれをいただいても、とても美味しい。
次は天ぷら。揚げたてで衣が軽い。大きな海老といく種類かの野菜。抹茶塩で食べてほしいという。そう言えば隣町の西尾は日本一の抹茶生産地だ。続いて、待ちに待った蕎麦の出番だ。今日は栃木県益子産とのこと。細切りなのにしゃきっとカドが立っている。これは水準が高いなんてものではない。自分の知る限り、間違いなく五指に入る蕎麦だ。露は切れの良い辛口。こういう風味が好きという蕎麦通は多いだろう。頃合いを見計らって蕎麦湯が出される。どろりとして濃厚な味わい。存在感のある蕎麦湯だ。
「実は、Kさんからお聞きして、お伺いしたんです」
合間を見計らって、知人の名を告げる。すると、ご店主も奥様も、温和な表情がさらにほころんで嬉しそうな顔をされた。こちらのお店とは、とても良い関係にあるようだ。なんだか、私も嬉しくなった。最後の蕎麦アイスクリームをいただく頃には、すっかりこの店の虜になっていた。今日は、ここへ立ち寄ることができて本当に良かった。この日、この蕎麦とお料理、そして何よりこの店の方々に出会えたことを、心からありがたいと感じる。そうそう、Kさんにもお礼を言わなければ。素晴らしいお店を教えていただいて感謝いたします。いつか、こちらでご一緒したいですね。