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『一握の砂』 より

こころよく
我にはたらく仕事あれ
それを仕遂げて死なむと思ふ

こみ合へる電車の隅に
ちぢこまる
ゆふべゆふべの我のいとしさ

やはらかに積れる雪に
熱てる頬を埋むるごとき
恋してみたし

こころよく
人を讃めてみたくなりにけり
利己の心に倦めるさびしさ

気の変る人に仕へて
つくづくと
わが世がいやになりにけるかな

こころよき疲れなるかな
息もつかず
仕事をしたる後のこの...
稲作挿話(未定稿)

あすこの田はねえ
あの種類では
窒素があんまり多過ぎるから
もうきっぱりと灌水〔みづ〕を切ってね
三番除草はしないんだ
  ……一しんに畔を走って来て
    青田のなかに汗拭くその子……
燐酸がまだ残ってゐない?
みんな使った?
それではもしもこの天候が
これから五日続いたら
あの枝垂れ葉をねえ
斯ういふ風な枝垂〔しだ〕れ葉〔ば〕をねえ
むしって除ってしまふんだ
  ……せ...
高村光太郎 詩集『典型』より
  岩手の人

岩手の人眼静かに、
鼻梁秀で、
おとがひ堅固に張りて、
口方形なり。

余もともと彫刻の技芸に游ぶ。
たまたま岩手の地に来り住して、
天の余に与ふるもの
斯の如き重厚の造型なるを喜ぶ。

岩手の人沈深牛の如し。
両角の間に天球をいただいて立つ
かの古代エジプトの石牛に似たり。

地を往きて走らず、
企てて草卒ならず、
つひにその成すべきを成す。

斧...
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